【勉強】こころオブ・ザ・デッド冒頭6Pでネームを勉強する会

      2016/05/18

 こころオブ・ザ・デッドの冒頭先行公開6ページを題材に、かがみのネームから目黒先生がどのような意図とテクニックにより最終形を作ったかを分析し、ネームのお勉強をする試み。

 講師は江藤俊司さん(漫画原作者)。ネームには作家の個性と思考法が反映されるため、以下の分析はあくまで江藤さんの理解であり、目黒先生の意図とは必ずしも合致しない可能性があることをご了承下さい。
 
 
○1ページ目

【読者の視線誘導はS字が基本】

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・かがみのネームのモノローグ、吹き出しの位置を調整し、S字に沿わせている
  
 
【アクションシーンでは俯瞰は避ける】

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・かがみのネームでは全ての要素を入れると俯瞰視点にならざるを得ない。
・アクション的な構図では俯瞰視点は基本的にやらない。
・俯瞰は客観的な視点、神の視点。説明のためのコマなどに用いる。
・俯瞰には全体を一望できるメリットがある。シーンが変わった時など位置関係を示すのには良い。
・アクションシーンで俯瞰を使う時は合戦を上から見て、大勢の騎馬隊を表現したい時など。
・スーパーマーケットを俯瞰で描いて、主人公の周りに大勢ゾンビがいる、といった状況では俯瞰もアリ。
 
 
【読者の視線移動時間を調節する】

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・読者の視点の流れ(S字)に沿ってチェーンソーの動きが描かれており、読者の視線を止めない。
・逆に「読者にここで一瞬目を止めて欲しい」場合は、チェーンソーの動きを逆に描くこともある
・けど、ここは冒頭部なので視線を止めない判断でOK
・セリフを読ませた後に、読者の目にゾンビの頭部が入るようになっている

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・かがみのネームでは「私」が右を向いているが、目黒先生は左向きに修正
・右向きは視線の流れに沿った素直な動きなので、読者がさらりと読みすぎて「大変だ!!!」に目が止まりにくい。
・左向きだと読者の手がほんの僅かに止まる。だが、あまり左を大きく向かせないことで、止まる時間を調節している。
 
 
○2ページ目

【斜めのコマ割でスピード感を】

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・コマ割りを斜めにすると「正常なシーンではない」表現になる。
・それにより「緊迫感のあるシーン」→「スピード感」を演出できる。
・日常シーンとかで斜めのコマ割りをやると、「BGMが合ってない」みたいな気持ち悪さになる。
・少女漫画などではコマ枠の余白を消すことで、その分だけ視線移動を速くしてスピード感を出すというテクもある
  
  
【でかいものを見上げる時はアオリの構図】

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・江藤「かがみのネームのまま描くと迫力もクソもあったもんじゃない」
・巨大なものを表現する時はアオリの構図。
・人間が大きなものを見上げる時はアオリになるため。
・アオリにすることで対象の巨大感が出る。
 
 
【セリフとモノローグの出し方の順で読者の印象をコントロール】

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・「ヤバイ」の位置を移動。S字の視線誘導に沿った形に。
・かがみのネームでは「白人のゾンビだ」→「ヤバイ」の間に客観的視点での説明が入るため、読者の緊迫感が削がれる。先に主観視点の「ヤバイ」を出してから説明へ。
 
 
【次ページへと繋がる視線の流れ】

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・本来のS字だと点線の方向に視線が流れるが、ここは次のページが隣にあるため、左上へと視線が流れる。
・その流れの上に「跳びかかっている先生」を配置している。
・なお、これはかがみのネームでもたまたまできていた。

○3ページ目

【キャラの同一性を読者に分かりやすく】

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・かがみ「2ページ目1コマ目と3ページ目1コマ目の白人ゾンビのアングルが同じだけどいいの?」江藤「おそらくここは同一性の保持を優先している」
・白人のゾンビはこの2コマしか出てこないので、3ページ1コマ目で白人のゾンビが背中を向けていると、顔が見えないので、読者は一瞬、これを白人のゾンビと認識できなくなる。
・同じ構図が続くこともあながち悪いことではない。構図が変わる(アングルが変わる)と読者が疲れ易い。少年誌などではカメラを動かした方がいいが、青年誌などではカメラを固定した方がいいこともある。媒体に依る。
 
 
【擬音の形で視線を誘導】

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・「ドバァア」「ザザァア」などの擬音の形状で読者の視線をナビゲートしている。
・1コマ目のゾンビの「?」に目が止まれば、後は矢印の通りに流れるような作り。
 
 
【左向きは未来を見る顔】

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・かがみのネームでは3、4、5コマ目で顔が全て右側を見ている。5コマ目の位置関係からこうなったが…
・目黒先生は3コマ目の先生の顔を左向きへと修正。
・江藤「そもそもみんな右を見ているのは、ない」「"みんな右を向いている"ことに、そのうち違和感を感じれるようになる」「位置関係を忠実にやる必要はない」
・左向きは未来を見ている、右向きは過去を見ている。
・牽引力のあるキャラは左を向き、受け身のキャラは右を向く。
・主人公に立ちはだかる敵などは右を向いてたりする。

【セリフで目を止める】

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・かがみのネームでは最終コマに情報が集中している
・「その人がすなわち」を3コマ目(先生)と4コマ目(私)の間に入れることで、セリフを読んでいる時間、読者の目が先生と私の顔に止まる。
・テンポは実際に音読して確認すると良い。吹き出しが変わるのは読点、コマが変わるのは句点のイメージ。
 
 
○4ページ目

【十字に切っちゃダメ】

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・十字に均等にコマを割るのは漫画の作法的にダメ。
・漫画を読むリテラシーのない人だと、右上から右下に視線を移動させる可能性がある。垂直線を5ミリずらすだけでも迷わなくなる。
・2コマ目と4コマ目の情報量は少ないので、ネームのように大きなコマを使う必要はない。その分、1コマ目のアクションなどを大きく見せる。
 
  
【最速の表現】
 
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・斬り終わった腕と、ゾンビの飛んでる首が右上にある(ページをめくってすぐに視線が動くところにある)ことで速さが強調される。
・視点の流れに逆らうことで相対速度が出る。
・上記二点の合せ技で「最速の表現」になっている。
・かがみ「視線の流れに刀の動きが沿った方がいいのでは?」
・江藤「逆らうことで『既に動作が終わっている』感じが出ている。これを左右反転すると、『いま斬っている』感じが出る」
 
 
○5ページ目
 
【セリフが続く時のパターン】

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・かがみ「同じキャラ(先生)のセリフが続いて、なんか絵を変えなきゃいけなかったから、苦し紛れでアップにしてみたんだけど、これってアリなの?」江藤「アリ」
・他のパターンとしては「画面を引いたり」「俯瞰にしたり」「アオリにしたり」。会話の内容によって変える。今回は迫っていく(問い質していく)感じなのでアップはアリ。
 
 
【絵と空白でテンポを調整】

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・かがみのネームだと私のセリフの後に、すぐに「逡巡の後、先生は言った」が来るため、テンポが早すぎて「逡巡してる感」が出ない。
・目黒先生は「対ゾンビ教訓を受けたいのですーッ!!」のセリフの後に、「私の顔」「空白」で間を2回空けることで「逡巡してる感」を演出。
・「真面目なんです、真面目に先生の人生から――」「対ゾンビ教訓を受けたいのです―ッ!!」を繋げることで、私が一気呵成に叫んでいる印象も演出している。

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