【勉強】こころオブ・ザ・デッド1話でネームを勉強する会
こころオブ・ザ・デッドの1話を題材に、かがみのネームから目黒先生がどのような意図とテクニックにより最終形を作ったかを分析し、ネームのお勉強をする試み。
講師は江藤俊司さん(漫画原作者)、渡辺義彦先生(漫画家)。ネームには作家の個性と思考法が反映されるため、以下の分析はあくまで両氏の理解であり、目黒先生の意図とは必ずしも合致しない可能性があることをご了承下さい。
1~7ページの検討記事はこちらから。
○8ページ目
【シーンが変わった時の情報提示】
・シーンが大きく変わり、全員新キャラ。
・まず2コマ目で登場人物を全て出す。この時のキャラの大きさで重要度が分かる。Kと先生の面積が大きく、お嬢さんと奥さんが小さい。お嬢さんと奥さんが脇役であることが分かる。
・全員を最初に出してから個別に出していく。初出の重要キャラであるKをぶち抜きで描く。
・シーンが変わった後は、まず5W1Hを示す。(「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」)
・1コマ目で空の様子を描くことで時間帯を示し、2コマ目で家の玄関を描き場所を示す。
・なお、シーンが変わった後は、この5W1Hと新キャラたちの情報を描かなければならないため、情報量がどうしても増えるのでコマの数を減らした方がいいらしい。このページなら3コマくらいにするのが良いとのこと。
【最終コマとS字の関係】
・最後のコマのお嬢さんたちは右側に向いており、本来のS字の視線誘導とは逆になっているが、お嬢さんたちの視線が左側に流れているため、これでもS字の流れには沿っている。
・顔の向きが同じ方向が続くので右側を向きたいが、S字に逆らっている時などに使える?
【コマの省き方】
・ネームのふすまを閉めるコマは省ける。
・「お部屋はその突き当りの」というセリフと「ガラッ、ピシャッ」でふすまを開けて閉めたことが絵に描かなくても分かるため。
・あとそもそも「お部屋はその突き当りの」のセリフがないと、Kが初めて入った家で、突然、どっかの部屋の中に入っていくことになる。
○P9
【濃淡による視線誘導】
・5コマ目はモブにトーンをかけて、Kの上衣の白さを際立たせている。これにより、視線誘導のS字のラインの中に、目立つところを収めている。
【引きの作り方】
・Kの手がバッと出てるだけで十分に引きになるので(読者は次のページが気になるので)、ネームの「先生…」のコマは要らない。引きが二つあっても特に良いことはない。
・ただし、青年誌の読者ならKの手が出た時点で「Kが先生の発言を止めた(次にKが何かを言う)」という機微が理解できるが、少年誌の読者では理解できないかもしれない。少年誌の場合は、Kの手の隣に「先生…」と入れて引きにしても良い。
P10
【……の削除】
・1コマ目のセリフは難しいので、2コマ目のタイミングで読者の中にセリフが染みこむ。
・2コマ目に「……」があると、「……」自体が情報がなので、そちらに読者の心が移ってしまう。
・ただし、2コマ目の絵の力で読者の視線を止める自信がないなら、2コマ目に「……」を入れるのはアリ。
★【面白いポイントを限定する】(((重要)))
・このページは1コマ目と5コマ目(青枠)が演出意図のあるコマ(面白いコマ)。
・3~4コマ目の情報は大して面白い情報ではない。
・ネームだと、先生「Kにはこういうところがあった」→K「この逆境こそが僕を強くするだろう…」→先生「まるで苦行僧か何かのように自分の逆境を有難がるーー」となっている。これは「Kにはこういうところがあった」というセリフの後に、Kの「この逆境こそが~」を入れることで、「こういうところ」の実例を示すという「面白くするための工夫」ではある。
・ただし、「先生のモノローグ」→「Kのセリフ」→「先生のモノローグ」と交互になることで読みにくさも発生している。最終形は「Kのセリフ」→「先生のモノローグ」になっており、スッと読める。
・面白いのは1コマ目と5コマ目。3~4コマ目の情報は面白くないので「ちょっと面白く」しても仕方がない。それよりはスッと止まらずに読ませて、面白い5コマ目に早く到達させるべき。
・演出意図のあるコマ(面白いコマ)を重視する。何でもかんでも面白くすればいいわけではない。
○P11
【時制の移動を抑えて単純化する】
・ネームだと「過去」→「現在」→「過去」と時制が行ったり来たりで複雑なので、最終形では一つにまとめてシンプル化。
【次のシーンの5W1Hを引きにする】
・ネームの「あら…先生」の引きも悪くはない(45点くらい)
・最終形では背景で次のシーンの5W1Hを示すことで引きにしている。逆に言うと、次のシーンを示唆することは「引き」になる(引きの作り方のテクニック)。
【S字の視線誘導のテクニック】
・5コマ目では、イメージ映像の中で風が吹いて葉っぱが右下に流れている。
・6コマ目では本来部屋の中にいるはずの先生が、5コマ目のイメージ映像の中の風邪を受けて髪が右下にたなびき、視線が次のセリフに繋がり、S字を作っている。
・これはネームのレベルでは考えなくて良いテクとのこと。
○P12
【シーン切り替え時、キャラの位置関係を示す】
・最終形は、シーン変更後、1コマ目で先生とお嬢さんの位置関係を示している。
・これによりネームの2コマ目(「危ない!!」)がオミット可能になる。位置関係が予め示されていることで、「先生が動かなくても抱きとめられる」ため。
【カメラ位置の工夫】
・ネームでは特に何の工夫もなく、先生が前を向いてモノローグしている。
・最終形では先生の主観視点に近づける形の構図に。このモノローグの内容が先生の主観なので。
○P13
【シーン切替時のコマの省略】
・前のページから「先生の表情」「先生の服装」「背景」が大きく変わっているため、これだけで時間経過と場面の切り替えが分かる。よって、ネームの1コマ目の時間経過コマを省ける。
・また、「受けるセリフ」から始めることで(「え? Kがどうかしましたか?」)、シーン切替後の会話の第一声は省略可能かもしれない。シーン切替後はこれができないか、一度考えてみてもいいかも。
○P16
【静と動の要素】
・「糞ッッ!!」が動の要素。このページは他が静の要素なので、動の要素を加えてアクセントに。
○P17
【シーン切替後のテーマを端的に示す】
・最終形、4コマ目からシーンが切り替わる。最終形では切り替わってすぐに「暴漢?」のセリフを置いて、このシーンでのテーマを端的に示している。
・ネームの方では奥さんのセリフの中に埋もれているので、最終形に比べて「何の議題について今から話すのか」がやや伝わりづらい。
・最終形の方には、先生とKの顔を大きく描けるという強みもある。
【引きの種類】
・引きは「疑問形」で終わるか、「背景を変えて新しい展開を予想させる」、この2パターンでOK。(後者に関してはP11を参照)
・ここでは(作者はそうではないと分かっているが)読者からすると「しかし相次ぐとは…?」の次に、先生が何か回答をもたらすかもしれない、といった期待を覚える。よって引きとして成り立つ。
・「ともかくーー」も疑問形の亜種なので悪くはない。ただし、ここは「しかし相次ぐとは…?」で十分引きになっているので、不要。二つ引きがあっても、同時に二つのことは考えられないのでむしろ邪魔になる。
・内容的にも「ともかくーー」がない方が、Kの抜け駆け感が強まるのでグッド。
○P18
【構図の推敲】
・ネームではP18の5コマ目と、P19の2コマ目(青枠)が「Kを見上げる構図」で被っているので、「これをもっと良くすること」を考える。
・すると、P18の5コマ目の方は「先生にフォーカスしてよい」という発想に行き着く。
○P19
【時間の流れの例外】
・理屈で考えれば、「キャアアアア!!!」を聞いてから「!」となるので、ネームのようになるが、S字字の視線の流れを考えると、最終形の形でも問題ない。視線の流れ的に「!!」と「きゃああああ」がほぼ同時に目に入るため、「きゃああああ」を聞いた瞬間に「!!」となった表現として成立する。
○P20
【S字の視線誘導】
・S字の視線の流れに沿わせるべく、お嬢さんの顔を縦に配置。
○P21
【5W1Hの提示タイミング】
・ネームではシーン切替後の1コマ目に5W1Hを提示。最終形では2コマ目に提示している。
・シーン切替後の5W1Hは早い方がいいが、2コマ目くらいまではOK。
・3コマ目以降は良くないが、状況による。例えば「放課後ウィザード倶楽部」のようにトリオ主人公の作品では、(「シーン切替」→)「主人公1が発言」→「主人公2が発言」→「主人公3が発言」→「5W1Hの提示」で、4コマ目に5W1Hが来ても問題ない。
★【ターニングポイントの明示】(((重要)))
・「拘束して、決して近付かないように」は物語が異質化するポイントなので、こういうところは1コマ使って、アップなどを用い、強い演出で描く。
・P17の「暴漢?」もだが、ポイントとなる異質な点をパリッとした演出で描くことで、物語の中の重要なポイントポイントを指し示す。それにより読者が話を理解しやすくなる。
・ちなみに最終形3コマ目は衝撃吸収コマ。衝撃的なコマ(2コマ目)の後には読者が衝撃を吸収するための薄味のコマが必要。
○P24
【引きの情報を不鮮明に】
・ネームの「奥さん!!」を最終形では省略し、「助けっ…助けてッ!!!」で引きにしている。
・誰が「助けて」と言っているのか分からない方が、読者がページをめくりたくなる。
・江藤「お嬢さんならともかく奥さんが襲われてても気分が乗らないだろ」かがみ「ひどい!」
○P31
【引きの種類】
・目のアップを入れることで「ページをめくったら何かやるぞ」という雰囲気を出す。
○P34
【情報提示の順番】
・最終形では1コマ目で状況を説明してから、「クッ…」「もはやここまで…」が入る。
・ネームの方だと「クッ…もはやここまでか!」を見てから、状況を見ることになる。