久しぶりの少女漫画レビューです。前回、みんな大好き新條まゆ先生の不思議な短編集をレビューしましたが、今回は「して、わがままＨ」というすごい名前の短編集から、伊吹楓先生のわけの分からない短編を取り上げてみたいと思います。
『愛さないなんて言わせない』
舞台はどこぞの高等学校。女子高生の千佳が、幼馴染の茜くんと掃除をしているシーンから始まります。と、そこへ、クラスメイトの涼子ちゃんが泣きついてくるではありませんか。
涼子「あたしが日直の仕事をしてって頼んだだけなのに、クソ女とか言って…すごいムカつくー！！」
どうも、彼らのクラスには近藤雅くんという困ったさんがいるらしく、涼子ちゃんはその雅くんから「クソ女」と言われて泣かされたらしいのです。高校生にもなってそのくらいで泣くなよ、とも思うのですが、とにかく近藤くんがイタイ子であることは間違いなさそうです。
友達想いの千佳は、そんな近藤くんに文句を言いに行きます。しかし……
あっさり押し倒されてしまうのです。
近藤「どうした、さっきの勢いは……？ なんならオレがもっと声を出させてやろうか…？」
近藤くん、犯る気まんまんです。クラスメートに注意したらレイプされるって、ここは本当に日本なのでしょうか。
そして、止めに入った茜くんをも押し飛ばす近藤。本当に酷い男です。クラスの女子に悪態を吐くだけのイタイ男の子かと思いきや、文句を言いに来た女子を白昼堂々教室内でレイプしようとし、さらに止めに入った男子生徒を腕づくでブチのめしました。この男には性欲と暴力しかありません。正真正銘のクズやろうです。
そんなクズ男の近藤ですが、いざレイプ！という時に、突然悲しい顔をして立ち去ってしまいます。そして、ポケットから家族の写真をはらりと落とすのです。その写真から何かを感じた千佳はクズ男の家を訪ねることにしたのでした。しかし、教室内ですらレイプされそうになったというのに、わざわざ家まで訪ねるなんて、どれだけレイプされたいのでしょうか。
そして、千佳はクズ男の家で彼の義理の母親に会い、衝撃的な事実を知ります。クズ男の実の父親は既に死去しており、実の母親は他に男を作って失踪。一人残されたクズ男は今の家庭に引き取られたけれど、義理の母からは疎んじられ、辛い思いをしていたのです。義理母は千佳とクズ男の前で、堂々とクズ男を罵倒します。
義理母「目ツキは悪いし、愛想もない。ウチにはお前のいる場所なんてないんだよ！」
そんな義理母に千佳は思わず平手打ち。猛然と義理母に言い返すのです。
千佳「雅はねえ！ 確かに目ツキ悪いし、冷血男で見境なく迫ってくるけど…傷つきゃ悲しいし、ムカつきゃ怒るし…ちゃんとした人間なのよ！」
何気に義理母よりもマイナスポイントの列挙が増えてますが、とにかく千佳はクズ男を弁護したのです。
でも、よくよく考えたら、義理母だって、傷つきゃ悲しいし、ムカつきゃ怒る、ちゃんとした人間のはずです。そして、クズ男がクズであることは確かなんですから、これはクズ男が義理母をムカつかせて義理母が怒ってるだけな気もします。
（参考：親の目の前でクラスメートをレイプしようとするシーン）
養子が自分の目の前でクラスメートをレイプしようとしてるので、そんなとんでもない光景に腹を立て、「おまえみたいなガキ、ウチにはいらないんだよ！！」と正直に思うところを述べたら、何故かクラスメートに平手打ちされたわけで、むしろ可哀想なのは義理母な気がしてきます。
そして、家を出た二人は夜道を歩きながら語ります。いわく、クズ男は、母親が自分を捨てて他の男と出て行ったため、女を信じられなくなったというのです。千佳は「だから女の子に対していつも冷たいんだ」と納得し、クズ男を助けてあげようと「あたしがずっとそばにいるよ」と声をかけてあげるのでした。
千佳の優しさに、流石のクズ男も固く閉ざした心を開くのでしょうか……？
クズ男「だったら脱げよ。すべてを捧げる覚悟はできてんだろ？」
クズはやっぱりクズでした！
なんでお前も脱いでんだよ！！
大体ね、ここ公道なんですよ。家族の軋轢とか、人を信じる気持ちとか、無償の愛とか、そういうの色々置いといて公道で裸になるなよ。
で、そのまま二人はセックルに及び、なんとなく恋人みたいな関係になります。教室でレイプされそうになったことをきっかけに始まった二人の恋は、夜の公道でひん剥かれることでゴールインしたのです。
しかし、話はこれだけで終わりません。その後、千佳が自宅でデートの準備をしていると、幼馴染の茜くんが部屋に入ってきます。
そして、やっぱり押し倒します。
なんでも、茜くんはずっと前から千佳のことが好きだったらしく、クズ男に取られるのが我慢できず、思い余っての行動だったようです。人道的に考えて許されることではありませんが、しかし、「千佳がうるさいのでとりあえずレイプして黙らせよう」と考えたクズ男に比べれば幾分マシと言えます。
そこへタイミング良くやってきたクズ男。当然、茜くんをブチ殴ります。茜くんは血をだらだら流しながらも、それでもまだ食い下がり、「千佳さんは僕のことが嫌いですか！？」と尋ねるので、千佳も「そんなことないよ、嫌いだなんて…」と答えてしまいます。
普通に考えて、ここの「嫌いじゃない」は幼馴染としての話なわけで、恋愛感情抜きであることは明白です。しかし、クズ男はまったく空気が読めないどうしょうもない人間ですから、直ちに「裏切られた」と直結してしまうのです。なんて面倒くさいヤツなんだ。
クズ男「しょせん、おまえはオレの欲望を満たす器でしかないんだな」
そして、直ちに肉便器呼ばわりです。大体、裏切られたにしても、「お前はオレの体が目当てだったんだな」くらいにニュアンスになるはずで、「そうか、お前はオレの彼女ではなく肉便器だったんだな」と着地するのは、一体どういう論理によるものなんでしょうか。「それはそれとして、今後も肉便器として使用し続けるぜ」という固い意志のようなものを感じさせます。
クズ男が千佳を肉便器呼ばわりしたことで、茜くんも「これで千佳さんも目を覚ましてくれる！」と思ったのでしょう。千佳の手を引いて出て行こうとします。しかし、クズ男は茜くんから千佳を奪い返し、抱き寄せるのです。そしてここから、いまいち理解できないクズ男の長台詞が始まります。以下の台詞は、上記の台詞「しょせん、おまえはオレの欲望を満たす器でしかないんだな」の続きです。
クズ男「だけど、千佳は渡さない。…今なら、母親がオレを置いて出て行ったワケ…わかるんだ…。そいつが好きだからこそ、何を捨ててでも誰を傷つけてでも一緒になりたいって…。だからオレはそいつに何をされてもいい。奪ってでもオレのものにしたいと思った…」
この台詞で千佳は感動し、ハッピーエンドとなるのですが、僕には何を言ってるのかさっぱり分かりません。一文一文を精読してみると……
１「しょせん、おまえはオレの欲望を満たす器でしかないんだな。だけど、千佳は渡さない。」＝「千佳はオレの彼女ではなく肉便器だが、他の男に渡す気はない。オレだけの肉便器だ」
２「…今なら、母親がオレを置いて出て行ったワケ…わかるんだ…。そいつが好きだからこそ、何を捨ててでも誰を傷つけてでも一緒になりたいって…」＝「男に走り、実の息子である自分を捨てた母親の気持ちが分かった。何を犠牲にしても恋を優先するという気持ちが」
３「だからオレはそいつに何をされてもいい」＝「だからオレは、千佳が彼女ではなく、肉便器としてオレに奉仕するのでも構わない」
４「奪ってでもオレのものにしたいと思った…」＝「幼馴染の茜から千佳を奪い茜を不幸にしても、千佳はオレの肉便器だ」
精読すると、どう考えてもこういうことにしかならず、まるで意味不明です。まあ、とにかく、第三者にはさっぱり意味が分からないのですが、二人は何故かハッピーエンドを迎えたのです。
そして、謎のハッピーエンドを迎えた二人をよそに、茜くんは悲しい顔をして立ち去るのでした。ところで、もし、ここで彼が家族の写真をはらりと落とせば、千佳は茜に惚れ直していたかもしれませんね。レイプ未遂の後、悲しい顔して立ち去るところまでは一緒ですから。
【結論】
この漫画のヒーローのように、クラスメートには悪態をつき、白昼堂々レイプに及び、邪魔する者は暴力で排除する、まったくどうしょうもない人間のクズであっても、それでもやり方次第で彼女はできます。しかし近藤雅は、恋人はおろか、友人になるのも嫌で、近くにいるだけでも不快で仕方ない人間なのに、こんな男に女を惚れさせようと考えた伊吹先生はチャレンジャーですね。
【過去の少女漫画レビュー】
・「東京エロガンス」
・「愛+少女」
・「女王様のゆううつ」
・「あなたに繋がれたい」（前編）
・「あなたに繋がれたい」（後編）
