【7/5】レビュー「その名は101」


その名は101 (1) (秋田文庫)
その名は101 (1) (秋田文庫)横山 光輝

おすすめ平均
starsバビル2世の続編です。

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 すごく良い漫画。今のジャンプにもこういう作品が一つくらいあればいいのになー。

 
 ***

 これはバベル2世の続編なんですが(主人公名は101だけどバビル2世と同一人物。以下バビル2世と呼称)、この漫画の何が良いって、とにかく敵が殺る気満々なんです。バビル2世抹殺のために「配下の超能力者を一人送り込んでタイマン」なんて悪手は初回のみ。それで勝てないことが分かったら次からは総力を挙げて殺しに掛かります。以下、2戦目にあたっての敵の戦術。

1、バビル2世に標的(敵方の超能力者)をわざと発見させる。バビル2世が追いかける。
2、標的はセスナ屋(?)でセスナを強奪。バビル2世もセスナを借りて追いかける。
3、しかし、セスナ屋は敵の一味だった。セスナには爆弾が仕掛けられており、バビル2世のセスナは爆発。
4、標的は孤島に上陸。一方、孤島に待機済みの敵の仲間はバビル2世の死体捜索に入る(敵組織は死体を確認しない限り、"バビル2世のことだからきっと生きている"と判断し、絶対に油断しません)。
5、案の定生きていたバビル2世も孤島に上陸。しかし、孤島には地雷原が敷設済み。
6、さらに、銃で武装した敵兵士と軍用ヘリが襲い掛かる(バビル2世は少々銃撃を受けても平気ですがいっぱい受けると死にます)。
7、それらを全て迎撃したところで、いよいよ標的が戦車に乗って登場。

 このように、「罠を仕掛け」「有利な地形に誘い出し」「十分な兵力と武装で挑み」「死体を確認するまで決して油断しない」スタンスで敵は主人公を殺しにかかるのです。これを今のジャンプ漫画でもやって欲しいんだよなー。ブリーチとか敵戦力を分断しただけで喜んでちゃダメだよ。

 しかし、バビル2世はスティーブン・セガールのような男なので、苦戦はしつつもこれらを全て打ち破ります。当然、敵はビビりまくり。最初のうちは「フッ、バビル2世などオレが倒してやるぜ」とか言ってた敵の超能力者も、後半になると「バビル2世と戦いたくないから組織を抜けてきた」とか、上司に「はっきりと言っておきますが、私はバビル2世と戦いたくありません」とか言い出したります。ちなみに、後者の「戦いたくありません」の人に対して、上司は「分かった。こちらとしても、これ以上、貴重な超能力者を失うわけにはいかない。お前はバビル2世を誘き出すだけでいい」とかいうわけです。とても納得できる展開ですね。

 対バビル2世戦術をもう一つ紹介しましょう。この時はまだ中盤なので、敵組織も「いくらかの損失は覚悟でバビル2世を葬ろう」というスタンスで、仲間を一人犠牲にしてバビル2世の能力を調べようとします。

1、超能力者Aにバビル2世抹殺を命じる。
2、超能力者Bに、超能力者Aとバビル2世の戦いをレポートするよう命じる。
3、超能力者Aが工事現場で労働中のバビル2世を狙い、サイコキネシスでトラックを暴走させる。
4、同僚を庇って、トラックを受け止めるバビル2世。
5、トラックを支えているため動けないバビル2世の背後を銃で撃つ超能力者A。
6、救急車で運ばれるバビル2世。「しかし、バビル2世のことだから当然死んでないだろう」と、超能力者Aは救急車を崖から突き落とし車両は爆発炎上。

 捨て駒にされた敵キャラでさえも、「一般人を人質にし」「身動きできない主人公を背後から銃で襲い」「救急車も崖から落とす」と、このくらいのことはやるわけです。捨て駒でも本人は一生懸命なんですね。ちなみに、読者からしても、「ああ、この敵組織なら、救急車に乗ったら救急車ごと襲うよな」とか思うわけですが、劇中でもバビル2世は「次はこの救急車が怪しいから、僕は乗りません」と言って断固拒否し、それで一命を取りとめるのです。読者が考えるようなことは当然主人公も気付いてくれる。この辺りがすごく良かったです。(ちなみに、何の罪もない救急車の運転手は当然死にます)


 ……と、これまで101をベタ誉めしてきたわけですが、まあしかし、今の漫画に比べるとバビル2世の心情が分かりにくいとか、共感しにくいとか、そういうのも確かです。バビル2世の周りで人々はバリバリ死んでいきますが、これが良くも悪くも淡々と描かれているので、今の漫画に比べるとバビル2世の悲しみや哀愁は伝わりにくいのかもしれません。僕はあんまり押し付けがましいのが好きじゃないのでこんくらいでいいんですが、今の時代にあって、この淡々としたノリをやっても受けないのかもしれないですね。まあ、それはそれとして、今の漫画も敵キャラにはもっと本気で殺しに掛かって欲しいなー。


 ***

 ちなみに以下は、先日ラジオでやった「オレの理想の能力者バトル」と101の対照表。思ったんだけど、僕は単に横山光輝が好きなだけじゃなかろうか。


・能力がしょぼい(△:バビル2世の超能力は万能ではないが、それでも多種多様な能力を使いこなせるため生存能力はセガール級。一方、敵は超能力自体は補助的に用いており、基本は銃で撃ち殺そうとしているため、しょぼいわけではないが、「メインではない」という意味で「しょぼい」と言っても良いかもしれない)

・能力者は銃を持ってる人間に勝てない(○:勝てないわけではないが、バビル2世は銃で殺せる。敵の超能力者も多くは銃を使う。ヨミ様も銃で撃たれて死んだ)

・能力持ってないやつに負ける (○:実際に負けたわけではないが、銃火器で武装した人間はバビル2世にとっても敵超能力者にとっても脅威になる)

・自分の能力を喋らない(○:敵を倒した後にバビル2世が冥土の土産的に喋ることはあるが、敵の仲間には伝わってないのでセーフ。バビル2世の能力の秘密は最後までバトルの鍵となっている)

・奇襲が強い(△:終盤の敵拠点への潜入は一種の奇襲と言えるかもしれない。ただし、バビル2世は奇襲可能な状況でわざわざ名乗り出たりもする)

・連戦の場合は前のダメージを引き継ぐ (○:バビル2世はすぐに傷も回復するけど、それでも一応しばらくはダメージが残る(2~3日程度)。バビル2世に深手を負わせながらも逃げられた場合、敵がすっごい焦る。「早く見つけ出せ! 今のバビル2世ならやれる! だが、回復されたら、またあの化け物みたいなヤツと戦わなきゃいけないんだぞ!」)

・1vs1状況を作らない(○:常にというわけではないが、武装した兵士に囲ませたりする)

・自分の能力を相手に誤認させる(△:誤認させたわけではないが、バビル2世の隠された能力に相手が気付いておらず、それが戦いの鍵になっていた)

・即死能力が即死能力として機能する(○:即死能力というわけではないが、バビル2世のエネルギー衝撃波は一撃で敵超能力者を即死させる威力がある。ちなみに熊は2~3発で死ぬ)

・手加減をしない(○:敵が手加減しないのはもちろん、バビル2世も一切手加減しない。妻や息子、娘を本当に愛している敵であっても、バビル2世は一切の躊躇いなく殺す)

・気合や愛や根性ではどうにもならない(○:上の通り。バビル2世を敵に回すだなんて本当にかわいそう)

・能力を使わないうちに死ぬ(最強キャラでも死ぬ)(△:戦闘が省かれて殺されたキャラならいる。最強キャラというわけではないが、徐々に力を取り戻しつつあったヨミ様は、回復中のところをバビル2世に強襲されて殺された)

・能力やその弱点でキャラのバックボーンを語る(×:これは本当にない。あえて言うならバビル2世がそうなんだけど、それは物語「バビル2世」の内容であって、「101」でキャラを深く描かれた者はいないんじゃないかな)

・現実的に考えて銃や刃物は手に入らない(△:しかし、101の舞台はアメリカで、敵はCIAであった)

・すごく強い能力だけど、日常生活で使う機会がない(△:いかんせん日常生活がほとんど描かれないので良く分からない)

・能力と言い張って戦うけど、能力じゃない(特技とか手品とか)(×:これはなかった)

・戦略レベルのキャラがいる(×:これはいない。あえていうならバビル2世は催眠術も変装もできるので、彼がそういうキャラだとは言える)

・人が死ぬと周りが恐怖を覚える(○:後半は敵がバビル2世にビビりまくってる)

・能力者が餓死する。トイレも行く。(○:バビル2世もおなかが減ったら死ぬ)

・インフレしない(○:してないとは思うが、バビル2世は最初から強すぎるんだよなぁ……。しかも、ただでさえあんなに強いのに、終盤は3つのしもべを取り返すんだから鬼に金棒で、いよいよ敵が可哀想になってくる)

・強い能力者も、状況を整えられると死ぬ(△:理論上は死ぬと思うんだが……。実際のところ、バビル2世は核ミサイルくらい落とされてもなんだかんだで生き残りそう。ホントにセガールみたいなヤツなんだ)

・どんなに強くても遠くから狙撃されたら死ぬ(△:これも理論上は死ぬと思うんだが、いかんせんヤツはバビル2世……。ちなみに「地球ナンバーV7」という横山作品では、強すぎる超能力者対策として町全体にねむりガスを撒いて町民全員ごと眠らせて捕えていた)

・倒れた敵にきちんと止めを刺す(△:止めを刺すというか、バビル2世の攻撃を受けると一撃で死ぬからなぁ……)

・勝てるときに勝っておく (○:バビル2世が勝機を逃すはずもない)

・作用反作用がある (×:これはなかった気がする)

・国家権力が権力として機能する(○:敵の超能力者も街中で警官に発砲されたら逃げる。バビル2世が追い詰められた時も、駆けつけた警官により救われている)

・敵が普通に金で転ぶ(×:これはなかったが、敵の一人は組織を抜けて、金目当てで別組織に雇われようとしていた)

・能力についての研究が進んでいる(解釈は諸説ある)(○:既に実用化レベルに至っている)

・人の能力を確認する(能力の分からない相手と戦わない)(△:「バビル2世の能力は自分たちと同じである」という敵側の誤解がバトルの鍵になっている。途中で何か違うことに気付いて探ろうとしたりするが、イマイチ巧くいっていない)

・多対一(一が圧倒的に強い)(○:アリ。もちろん一の側がバビル2世。後半は敵を応援したくなってくる)

・読みが深すぎて自滅する(×:今回これはなかったような。「バビル2世」ではヨミ様がやってた気がする)

・非人道的な手段をためらわずに使う(主人公でも)(○:敵が「バビル2世の知り合いの少女を誘拐する」→「少女の人形に爆弾を仕掛ける」→「少女をバビル2世に返す」→「人形ごと少女爆発」という手段を使っていた。ちなみにバビル2世は当然これでも死なずに敵への殺意に燃えるんだけど、そのあまりの殺意にビビった敵の気が狂う)

・能力ではなく、相手チームの人間関係を崩す(女関係とか)(○:敵組織を情報操作で同士討ちさせたりしていた。あと、バビル2世が怖すぎて敵が一部崩壊を起こしかけていた)

・「眠らせる」能力が普通に致命傷(×:101には出てこないが「地球ナンバーV7」には出てきた)

・能力をあまり使いたがらない (△:バビル2世は使いたがってはいないようだけど、使うべき時には一切躊躇なく使うので微妙。冒頭から「お前の組織の超能力者を全員殺しに行く」とか宣言するくらい)

・第三勢力が機能する(○:終盤に登場する第三勢力が、バビル2世と協力関係→敵対関係へと移行する)

・一撃で決める(○:バビル2世に手加減という文字はない)

・情報が重要(△:戦闘よりもバビル2世の行動指針として重要だった。なお、バビル2世は人の心も読む)

・能力者が社会的に差別されている(△:差別というか、超能力のことがあまり知られていない。一応、不遇ではあるようだが……。「地球ナンバーV7」では差別されていた)

・基本戦わない。話し合いで解決する(×:「地球ナンバーV7」ではかなり話し合いをしようとしていたが、バビル2世は殺る気に満ちていた)

・味方の能力を把握できない(×:そもそもバビル2世が万能すぎて味方が必要ない。終盤で手を貸した男と3つのしもべくらいか……)

・チーム内で付き合ったり別れたりして空気が悪い(×:こういうキャラクター描写はなかった。敵陣営の個性や一人一人の関係性はほとんど描かれてない)

・物語上、必然性のないところに実力者がいる(敵と戦ってたら圧倒的に強い通行人に二人とも倒される)(×:こういったイレギュラーな存在はなかった)

・メインキャラでも死ぬ時は死ぬ(×:いかんせんバビル2世以外にメインキャラという程のメインキャラがいない。そして、バビル2世はセガールなので死なない。ヒロイン候補のキャラは序盤でバリバリ死ぬ)

・戦闘のストレスで胃潰瘍になってリタイア(△:胃潰瘍ではないけど、終盤の敵はバビル2世との戦いを心底嫌がっていた)

・相手を下痢や歯痛にして全力を出させないような能力が地味に戦局を変える(○:バビル2世による「テレパシーで毎日挑発作戦」により敵の気が狂った)

・主人公に戦闘力が無い。スカートをめくる微風程度の能力で悪の組織と戦わなければならない(×:バビル2世はセガール)

・「成功確率は1%未満」という行動は成功しない(×:バビル2世が動いてる時点で、成功率がそんなに低くなるはずがない)

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