***
とにかく思うことは、清涼院先生はハッタリとケレン味がすごく巧い。ジョーカー上巻に当たるこの小説は、そのことを強く感じさせてくれます。とにかくJDCが熱く、「すごい面子がそろった結社」を描くお手本のような本です。JDCの話が出るだけで問答無用で興奮します。
JDC(日本探偵倶楽部)は実力別に第一班から第七班に分かれており、第一班が最上位です。清涼院先生は第一班のスゴさをこれでもかというほどに描き込むので、読者的にも「第一班スゲー、容赦ナシにスゲー」と思い込むのです。第一班は名探偵を超えて超絶探偵と呼ばれ、その描写は名探偵というより、ほとんど超能力者です。
そして事件が発生。たまたまその場に居合わせたJDC探偵、螽斯太郎(きりぎりすたろう)はなんと第二班副班長! 第七班まである中で、第二班副班長という大物が既に事件現場にいるところからスタート! 清涼院先生のハッタリにより「第一班は変態集団」と刷り込まされた読者的には、「第二班副班長がいるんだ、これはもう解決だな!」とか思わされてしまうわけです。
そこへ、さらに増援が到着。第一班の探偵、霧華舞衣(きりかまい)、通称「消去推理の貴婦人」です。JDC総帥、鴉城蒼司も「螽斯に加え、霧華もいれば解決できないことはなかろう」とかいうので、読者的にも「こりゃもう解決だな」と思うわけです。
しかし、事件は解決せず、連続殺人はどんどんと進行していきます。と、そこへ、さらなる増援が到着。第一班の探偵、「とんち推理」の竜宮城之介です。その名探偵然とした容姿、振る舞い、カリスマ性に、読者は「今度こそこれで解決だ、間違いない」と思ってしまうのです。
まあ、解決しないんですけどね。
清涼院先生のすごいところは、新しい探偵が出るたびごとに「おお、これでもう解決だ!」と思わせてくるとこです。残りページ数の関係上、そんなことあるはずないと分かってるのにそう思わせてしまう。JDCという組織は、それだけのハッタリを備えているのです。
ただ残念なことに、3度も「これで事件は解決だ!」と思わせておきながら、事件がちっとも解決しないため、いい加減、「霧華や竜宮はたいしたことないんじゃないか?」と疑い始めてくるのです。いや、清涼院先生がやりたいことは分かってて、「第一班探偵が二人掛かりで解けない程の伝説的な犯罪である」ということなんでしょうが、しかし、犯罪の方のケレン味がそれほどでもないため、相対的に探偵たちの株が落ちてしまうのです。今回の幻影城殺人事件は、劇中の描写で言うならば「JDC総帥、鴉城蒼司ですら大苦戦した彩紋家殺人事件と同レベルの事件」ということで、JDCの歴史上、二度目の大物犯罪ということになります。だから、第一班二人掛かりで苦戦して当然なんですが、しかし、その狙いは(少なくとも)上巻だけでは達成できてません。これがコズミックのように「一年で1200人を密室で殺す」くらいの犯罪であれば、「さすがに第一班が二人掛かりでも苦戦するよな」となるんですが、幻影城の方は「1年で1200人」に比べればやっぱり地味なんです。
それでも清涼院先生はJDCの底を見せようとはせず、今回現れた第一班探偵「霧華舞衣」「竜宮城之介」は超絶探偵ではあるけれど、さらにその上に、第一班班長「刃仙人(やいばそまひと)」、第一班副班長「九十九十九(つくもじゅうく)」、第一班「不知火善三」の三人の国際A級探偵、さらに総帥「鴉城蒼司」(国際S級探偵)の存在を匂わせることにより、「しょせん霧華、竜宮といえど国際的にはB級探偵レベル。まだまだ底知れねえぜ、JDC」と思わせてくれるのです。SとかAとか、探偵というより妖怪扱いだけど。
あと、清涼院先生は読者の扱いが丁寧なのか杜撰なのか分からず、例えば、舞台となる幻影城の説明をしている時は、「昔から思っていたのだが、これは違法建築なんじゃないか?」と読者の声を登場人物に代弁させます。また、殺人事件が起こった後も、関係者が幻影城に逗留していることに対して、「なんで市内のホテルに移さないんだろうな?」と巡回中の巡査が思うわけです。このように、読者が当然疑問に思う点をちゃんと作中で語ってくれるという意味では丁寧なんですが、しかし、その答えが「いや、違法建築じゃないだろう。だって、実際に建ってるんだし」「関係者をここに留めておいた方が、捜査上何かと都合いいんじゃないのか」と答えにならない答えばかりで、清涼院先生は「お前ら、お約束なんだからこういうところに疑問を持つなよ?」というメチャクチャ投げやりな態度を見せてきます。僕の予想が正しければ、こういうところに先生の創作姿勢が如実に現れている気がするんですよね。
さて、僕の予想は当たるのでしょうか。次回「ジョーカー涼」のレビューに続きます。