【レビュー】映画「さらば青春、されど青春」

   

 見てきました。幸福の科学の映画、第12弾です。

 1980年代のレトロな雰囲気の中、東大に進学した一人の若者の大学生活を描きつつノスタルジックな雰囲気で展開していく本作。「これのどこがどう幸福の科学映画なんだろう……」と思いながらも見続けていくと、主人公の青年が突然に「思想家になりたい」と言い出した辺りで、「ハッ!」と気付きます。
 
 
「あ……これ、大川隆法さんの若い頃の伝記映画だ……!」
 
 
 そう、若かりし頃の自分を息子の大川宏洋さんに演じさせているのです! マジかよ! さらに、級友のあこがれの女子に送ったすごいセンスのラブレターを宏洋さんが朗読! マジかよ! 自分が女に送ったラブレターを息子に朗読させるのかよ、マジかよ!!!

 大川宏洋さんは、何があったのかは分からないけど、今は幸福の科学教団とは縁を切られた状態らしいですが、「父親のラブレターを音読させられた」ことが原因なんじゃないかと思ったり。いやだって、その演技、普通に辛いだろう……。

 というわけで、すごく美化された大学時代の大川先生を息子さんが演じるという、何ともすごい内容の本作なんですが、映画として見ると、これが意外とバランスが良くてですね……。

 最初こそ「すごい美化された」感じのする若かりし大川先生ですけど、周りの人物との関係性が妙にリアルなんですよ。例えば家族との関係性が顕著なんですけど……

1、女性にフラれた劣等感から父親へ強く当たってしまう
2、父親と和解する
3、父親が霊言集の出版に協力してくれる
4、父親の事業計画にダメ出しし、連帯保証人になることを断る

 と、こんな感じで推移していきます。

 1の段階では父に対して大川先生が自分の態度に負い目を感じている状態。これが2で良好な関係になり、3でさらに父が熱心に協力してくれるようになります。1から2、3への遷移を通じて主人公の成長を描いているんですが、しかし4で、今度は親父の側が「連帯保証人になってくれ」という結構辛い提案をしてきます。関係性が良くなったり、すごく良くなったり、一転して悪くなったりする。見てる側の親父の評価もゴロゴロ変わっていき、このへんの描写がすごくリアル。実に人間っぽい。

 大川先生は美化はされてるんだろうけど全然順風満帆ではない。降りかかる試練も英雄的というわけでもなく、「親父が連帯保証人になるよう求めてくる」とか、非常に地味で生々しい試練だったりします。

 あと、ドラマ性(葛藤)も結構強いんです。主人公は「会社ではみんな自分に期待してくれてるし、今、自分が辞めたら迷惑かけちゃう」と思っているんだけど、主人公(大川隆法)に語りかけてくる高級霊たちは「早く仕事を辞めて、宗教家になるんだ!」って言ってくるんですね。

 これ、自分の身に当てはめることは全くできないけれど、感情移入はできちゃうドラマ性。そりゃあそうだよな。なんかよく分からない超自然的存在から「仕事やめろ」と連呼されても、「今やめたら迷惑掛けちゃう……」って思ったら辞めれないよね。この辺の心情描写は普通に納得できるし感情移入できちゃう。もちろん高級霊から離職を勧められるという前提を飲み込んだら、の話ですが。

 ちなみに、葛藤に悩む主人公に悪魔が忍び寄り、邪悪な誘惑を行うのですが、その内容がものすごく現実的な人生設計だったりします。いわく、

「宗教家になるにしても、もう少しビジネスマンを続けて経済的余裕を持ってからの方が良くない?」
「商社で重役になってから宗教を興した方が社会的な信頼感も増すのでは?」
「今も霊言集は出版してるんだし、会社勤めしながらでも布教活動はできるのでは?」
「家族の面倒も見るべきだし、会社勤めで生活を安定させつつ布教活動を続け、支持者を増やしてから宗教家デビューした方がいいんじゃない?」

 ウッ……全て正しい……。一緒に見に行った友人は「あともう少し歳を取ると、こういうことを言ってくれる人もいなくなるから悪魔の存在は貴重なのでは?」と言っていました。

 いちおう、物語の文脈的には、「早く離職して宗教団体を興せ」と呼びかけてくる高級霊がいて、社会的・経済的側面から脱サラをためらう主人公がいて、悪魔は主人公のためらいを助長させるという構図なんですが、この悪魔の助言が非常に的確でめちゃくちゃ合理的なのです。

 でも、こういうところのリアルさの強度が高いので、話全体が締まっています。悪魔はめちゃくちゃ合理的なことを言ってくるので、それゆえに、そのよく分かる合理性を振り切って、よく分からない霊的世界に飛び込む大川先生が英雄的に、もしくはイッちゃってる感じに見えるのですね。どちらで受け取るにしろ、リアルな前提描写が効果的に決まっていたと思います。(まあ、宗教というのは多かれ少なかれ合理性から逸脱するもんです)

 主人公が唐突に精神世界系の大望を語り出したり、黄金色に光り出したり、天上からエネルギーを下ろしたり、日蓮を憑依させたりすることを除けば、ノスタルジックな世界観の中で朴訥な青年が過ごしていく話として本作は普通に楽しめます。かなりバランスが良い。もちろん唐突に後光が差し始めるところとかのバランスはゴタゴタなんですが、そこはもう敢えて異物感を出して宗教要素を強調しているのかもしれない。

 総じて言うと、幸福の科学映画も12本目を迎えて、どんどんエンタメ的に洗練されてきたな、と感じました。昔は宗教色の強弱はさておいても、単純にエンタメとしてのレベルが低かったんですが(信者以外の視点をあんまり気にしてなかった)、最近の数作はだいぶ外部の視点を意識して、きちんとエンタメしてるんですよね。

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