【1/28】レビュー「焼きたて!!ジャぱん」


 
 読みました。ご存知、パン漫画ですね。連載時、僕がサンデーを立ち読みする際は必ずこの漫画を読んでて、いつもコンビニで笑いを必死に押さえていたんですが、最終回を迎えた後、巷ではクソ漫画との評判が立っていると聞いて首を捻っていたものです。「確かに最初は面白かった」「通読したらクソ漫画になっていくのが分かる」などの声をもあり、半信半疑でしたが、今回、実際に通読してみて、なるほど、クソ漫画と言われるのも分からんでもないな、という感じの結論。


・クソ分析

 思うに、クソ漫画扱いされているのは以下の三点の要因かと。

①リアクションの脱力ギャグ化(ダジャレ化)
②正統派グルメ漫画(?)からメタグルメ漫画への変化
③ワンパターン化と間延び感

 ①と②は密接に関係し「好みの分かれる作品」となってしまい、③は①と関連してかなり厳しい状況が生まれていました。

 ①の「リアクションの脱力ギャグ化(ダジャレ化)」は、初期では「ベーパーアクションの際に林家ペーパー夫妻のイメージ映像が現れる」程度でしたが、中盤のモナコカップでは「コナンは手前味噌」→「古代米味噌」、後半の焼きたて25では「カイザーゼンメル」→「シーサー噛んどる」など、かなり無理のあるものに変化しました。

 それでも中盤のモナコカップでは審査員であるピエロの出生の秘密が絡んできたため、リアクションの裏に大きな流れとやたらに長大な回想シーンが存在していました。また、試合システム上一度も負けれない緊張感もあって、緊張感と謎解きを「くだらないダジャレで落とす」という芸が成り立っていたのです。

 問題は焼きたて25の前半戦で、こちらはシステム上、一度や二度負けても構わないために緊張感に欠け、さらに25戦も戦うと考えるだけで「間延び」を感じて読者側も弛緩。対戦相手も再生怪人が多く新味がなく、主人公が強すぎるせいでワンパターン化。リアクションも大きな流れの中にあるものではなく、その場その場のダジャレになったため必然性の薄さがダジャレの無意味感に繋がっていました。

 緊張感のある大事な流れをくだらないダジャレで締めるから芸になっていたのが、どうでもいい流れをくだらないダジャレで締めるようになったら何も残らないと言いましょうか。③の「ワンパターン化と間延び感」を強く感じたのが焼きたて25前半戦でした。諏訪原戦でのモニカの可愛さとか、飛び道具としての三木のり平の起用、ボットン便所に落ちたことで勝利の緒を見出すグルメ漫画にあるまじき展開など、見どころはあるにはあったんですけどね。


・過程としてのリアクションから結果としてのリアクションへ

 これがまた一変したのが焼きたて25終盤の雪乃戦で、雪乃側が仕掛けた「逆転タルト」の審査員リアクションにより、これまで主人公側が勝ち取ってきた勝ち星が逆転、優勢状態から一気に危機的状況に陥る世界改変が行われるに及び、②のメタグルメ漫画へと本格突入。パンの良し悪しだけでなくリアクションの結果によるルール外勝利を目指して戦うオンリーワン漫画となりました。

 さらに雪乃戦では仇敵雪乃がリアクションにより気体化しダッチワイフ化(ダッチワイフの中に気体化した雪乃が入る)。それまでの対戦相手もリアクションにより人外とはなっていたけど、初出キャラだったり端役だったりして物語上の重要性が薄かったのに対し、序盤からの仇敵(嫌われ役)である雪乃がダッチワイフ化して物語的に「罰」を受けたことにより、リアクションの重要性が印象づけられました。リアクションは一発芸ではなくなったのです。

 そこからは洗脳パンによる審査員洗脳戦、魔王化(パンの化け物)したラスボスとのリアクション肉体強化による肉弾戦闘、リアクションによる地球温暖化対策と、パンとリアクションは万能魔法化し、物語の非常に大事なところにリアクションが進出。「大事な流れをくだらないダジャレで締める」が再び芸として確立されて、終盤のジャぱんは息を吹き返しました。


・駄目であり続けるキャラたち

 ただし、「メタグルメ漫画」は終盤だけではなく、かなり早い段階から行われていました。例えば、カツヲというキャラクターが新人戦に残るために、「カビの生えたパンを食え」という嫌がらせ的要求に応えて覚悟を見せるシーン。少年漫画にありながちな「こいつにはこれだけのことをする事情がある」という流れなんですが、これの謎解きが「美人の新妻が、新人戦に勝ち残るごとにあんなプレイやこんなプレイをさせてくれるというので」。グルメ漫画にありがちな「どうしても負けられない強い想い」を避けて、こういうクソみたいな展開を持ってくるのは明らかに巷のグルメ漫画様式を意識した上での裏切り(メチャクチャ良かった)。これも一種のメタ描写であり、この延長線上に「リアクションをイメージだけで終わらせず物語の本筋に据える」という流れがあるわけです。

 カツヲと同じようにキャラクターの扱いに成功していたのが河内で、彼は駄目キャラとして描かれながらも「奮起すれば相当の成果を残せる」という展開をモナコカップ決勝でやってます。で、続く焼きたて25でも周りからハッパをかけられてそのような雰囲気を何度か出しながらも、駄目を貫いたり、奮起はしたんだけどクソみたいな結果で終わったりと「普段はダメだけど本気を出せば凄かった」という安易な展開をやたらと繰り返しはしませんでした(トンカツはちょっと頑張ったけど)。代わりに彼はリアクション要員となって肉弾戦闘でラスボスを倒したり地球を救ったりと、全く別のベクトルから活躍機会を与えられています。「主人公の横にいる実力で劣る驚き役」が「奮起したら頑張れる」みたいな展開はお約束だけれど(ex.ソーマの田所恵)、これもあんまり繰り返されるとウザイですからね……。

 という感じで、リアクションだけではなくキャラの動かし方や作劇なども「よくあるグルメ漫画展開」を意識した上で裏切っており、僕から見るとそのやり方は概ね成功していたんですが、「お約束を外している」のに違いはないので、そこで「つまらない」と感じてしまう人や、分かっていても「外し方が巧くない」と感じてしまう人がいるのも分からんでもない話。メタ描写ってそもそもお約束をよく分かっていないと面白がれないので、そこで一定の足切りになっちゃうのも事実。序盤がマスに受ける作劇だったので、そのギャップもあったはず。

 個人的には最終盤の「河内が奮起して修行するけれど、先に作った主人公のパンが巧すぎて審査員がリアクションで蝶になり、口がなくなったので河内のパンが食べられず、代わりに河内の体液を吸う」という展開はメチャクチャ面白い裏切りだったんですが、駄目キャラとしてずっと描かれてきた河内が新たなる師の下で修行を積み、最後の最後で主人公を上回る勝負を繰り広げるのでは……と期待した人はガッカリしたのかも。「あれだけ尺を取って修行シーンを描いた」からこそ「修行が全く無意味」なことがギャグになるんですが、「無意味かよ!」って怒る人も、まあいるんじゃないかなー。そういう「ゴミ箱に今すぐ本を叩きつけたくなる」ギャグを中盤以降ずうっとやってるんですよね。これはそういう芸風なので合わない人は合わないで仕方ないと思う。


・まとめ

 というわけでまとめますと、概ね面白かったです。しかし、冒頭で書いたとおり、クソ漫画と評されるのも仕方ない感じ。「お約束を裏切る作劇」や「脱力ギャグ」はダメな人にはダメだと思うので、これだけがクソ漫画の理由なら「通好みの漫画」でいいんですけど、実際に焼きたて25前半の間延び感とワンパターン化はいかんともし難いんですよね。部分部分ではちゃんと面白いのに、流れ的な緊張感に欠けるゆえにクスッとはできても締まらない感じ。

 なので、メタグルメ漫画化が進んでいき「ちょっと付いて行けないわー」と思っていた人たちが、間延び感とワンパターン化で完全に熱が冷めてしまい、終盤のリアクション世界改変や魔王化、地球温暖化対策などの怒濤の流れに乗りきれなかった、という感じでしょうか。終盤は面白いことは間違いなく面白いんですけど、序盤とは大分面白さの質が変わっているのと、この問題のダブルパンチだったと思います。僕は今回コミックスで一気読みしたから、イマイチな焼きたて25前半戦をさらっと流せたけど、リアルタイムだとそこに付き合ってた人たちがガッカリするには十分な長さがあったんじゃないかなあ。

 しかし、グルメ漫画には付き物である「リアクション」という要素を最大化する試みは、グルメ漫画を考える人なら誰もが一度は想像するものでしょう。ジャぱんがそれを巧くやれていたかどうかは別として、「実際にやった」というだけでこの作品にはオンリーワンの価値があります。好むと好まざるとにかかわらず、グルメ漫画を考えるにあたって重要な位置を占める作品であることは認めざるを得ないでしょう。


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