【11/15】三ツ首コンドルとヨアケモノの打ち切り理由を考える


※DMMニュース用に書いたものですが、期せずしてヨアケモノの激しい死体蹴り感が出てしまったので、自粛してボツにしたものをこちらに掲載します。

 週刊少年ジャンプ49号と50号において、「三ツ首コンドル」と「ヨアケモノ」の二作品が続けて終了となりました。「バクマン」などでご存知の方も多いと思いますが、ジャンプでは(他の多くの漫画雑誌も同じですが)読者人気の芳しくない作品は短期で終了になります。もちろん、人気が芳しくないとはいえ、その作品のファンになった人たちは一定数存在しますから、「なんでこの漫画が終わるんだ!」と思うこともあるでしょう。

 数字が全ての残酷なシステムではありますが、雑誌の新陳代謝を促し、より多くの新人にチャンスを与えるポジティブな面もあります。実際のところ、一度連載を経験しなければ得られないものもあるので、「チャンスを増やし」「作家の経験値を上げる」意味では、あながち否定できないシステムとも言えます。

 さて、今回短期終了となった「三ツ首コンドル」と「ヨアケモノ」。人気が得られなかった理由はおそらく誰にもハッキリとは分からないのですが(それが分かれば全ての漫画が大ヒットです)、僕の見た範囲での読者の反応から両者の敗因を考えてみたいと思います。

 まず、「三ツ首コンドル」ですが、こちらはスタートダッシュに失敗したのが痛手だったと考えられます。特に第一話が顕著で、「宝箱をぽかぽか殴っていたら何故か階段を転がり落ちる」「敵から大ダメージ攻撃を受けたが特に理由もなく平気だった」などの首を捻る描写が多く、作劇の粗い印象を受けました。これが絵柄の丸っこさと合わさって、「対象年齢の低い作品」と見做され、一部の読者層から見放されたのではないかと思われます。

 名高い盗賊が各地のダンジョンを攻略してマジックアイテムを収集していく設定には夢があったし、後半になってくるとヒロインの成長が気持ち良く描かれ、また用意されていた様々な設定が開示されていくことで「作者の描きたかったもの」がしっかりと伝わってきました。連載が進むごとに良い所が見つかり評価の上がっていった作品であり、それだけに序盤の作劇の粗さが惜しまれます。

 次に「ヨアケモノ」ですが、こちらは対照的に、高い評価を得た第一話から徐々に評価を落としていった作品でした。幕末を舞台に新撰組を主人公組織に設定し、動物をモチーフとした特殊能力をもって維新志士と戦う設定には計算高いものが感じられます。新撰組は既に各キャラクターに固定のファンが付いているし、動乱の時代である幕末ならば幾らでもドラマ性を盛り込めるからです。ですが、結果的に言えば、武器となるはずのそれらの設定に足を掬われた感がありました。

 まず第一に、主人公の倫理観や作中での善悪に関する問題があります。第一話では主人公は山賊(追い剥ぎ?)であり、凶悪だけれども仲間想いの少年が、立身出世を目指し新撰組入隊を目指す友人に誘われて共に京へ行く話となっており、「悪人が」「野望を抱く」という、ある種のピカレスク・ロマンの風情を醸していました。ジャンプらしくないハードな設定ですが、ワンピースなどもこのピカレスク・ロマンの流れと言えます。

 しかし、第二話以降、初期設定であった主人公の凶悪さは急速に薄れていきました。敵対勢力である維新志士が「邪悪な集団」と設定されたことで、相対的に主人公が「正義の味方」ポジションに近付いてしまい、主人公の倫理性がフラフラとします。維新志士も大した悪人描写はなく、彼らを責める主人公の言い分も、もともと主人公が悪人であっただけに説得力に欠け、ピカレスク・ロマンを期待していた読者はガッカリしました。

 そもそも史実からすれば、新撰組は「正義の味方」からは程遠いものです。現代から見た新撰組は、「時代の流れに逆らって誤った船に乗った青年たち」であり、彼らの「滅びの美学」にわれわれは痛切さと魅力を感じるのですが、「ヨアケモノ」ではそういったニュアンスは排されて、新撰組と維新志士の勧善懲悪物語へと変わっていました。

 もちろん少年漫画ですから、その単純化が一概に悪いとは言えないでしょう。ですが、本来の複雑性をその単純性へと落としこむ際の説得力に欠けていたことは否めません。史実で言えば維新志士たちには維新志士たちの正義があったはずです。それを無視して彼らを悪役に設定するなら、彼らは徹底した極悪人にしなければならなかったのですが、その描写が足りなかった。結果、読者にとって維新志士はしっかりとした「悪の組織」には映らず、主人公の倫理性のあやふやさや新撰組加入の動機の薄さも手伝って、「主人公は新撰組より先に維新志士に会っていたら維新志士になっていたのではないか?」などと言われることになります。様々な価値観の激突する複雑な時代である幕末を舞台に選んだのが足枷となっていたのではないでしょうか。

 次に、作中のパワーバランスと、それに伴う新撰組の描写がネックになっていたと感じます。主人公は第一話では、武器を持った相手25人を友人と二人で無傷で斬り伏せています。達人級の強さのはずなんですが、どうも作者の中ではこれは「強者描写」には入ってなかったらしく、二話以降、主人公は別に強くないことになりました。新撰組の入隊試験にも落ちてしまいます。

 では、達人級の主人公であっても入れない程に新撰組は超人集団なのかと言えば、どうもそのようには見えず、特に沖田総司などは「強い」「強い」と言われていても、活躍シーンがほとんどありませんでした。主人公の活躍シーンを描く必要上、沖田さんは敵にふっ飛ばされて場を外したり、特に加勢せず主人公の戦いを横で見守ったりなどで、読者的には「強いはずなんだけど、役に立たない」印象が強くなってしまいました。

 読者は、新撰組の、それも歴史上の有名ネームドキャラである沖田総司には大きな期待を寄せるものです。その期待と作中描写のギャップにテンションが下がったことは否めません。新撰組は「読者のイメージするキャラの格」を落とさずに描けるなら強い武器となるけれど、逆に格を落としてしまうと読者のガッカリ感が手伝い大きな痛手となってしまう諸刃の剣なのでしょう。

 また、新撰組が異様に厳しい入隊試験(特殊能力を持っている沖田総司を相手に一本勝ちできなければ入隊できない=ほぼ誰も入れない)と、異様に厳しい新人研修(特殊能力を持つ危険な維新志士といきなり戦わされ先輩は横で見てるだけ)を課していたため、「ブラック企業にも程がある」などと言われ、新撰組に入った主人公が全く羨ましく思えませんでした。まぁ、新撰組がブラック企業なのは史実を鑑みれば正解なのですが……。

 第三に、主人公たちの特殊能力である「獣刃」を使った動物パワーがあまり有効に機能していなかった点が挙げられます。主人公は山犬の力を持つから体力があるという設定でしたが、実際の戦闘描写では「一度にたくさん殴れる」くらいの意味合いしか持たず、普通の人間と比べて、動物パワーを持つ人間がどれくらい強いのかよく分かりませんでした。動物パワーで「熱を捕捉する」「体温を下げる」などの工夫も感じられはしたのですが……。

 ただ、この設定には良い所もあって、ヒクイドリとのキメラとなった吉田稔麿や、ウワバミ盲目剣士となった岡田以蔵など、作者による激しい魔改造を施された維新志士たちに一部の読者は熱狂していました。しかし、本来の読者層である子供たちにこの楽しみ方は伝わり辛かったであろうと思います。

 話が進むごとに様々な問題点が見つかる「ヨアケモノ」でしたが、第一話の時点では一撃で人の死ぬハードな世界観が描けていました。また、タイトルの「ヨアケモノ」にも何かメッセージが隠されていたはずであり(「日本の夜明け(=明治維新)」が訪れると主人公たち新撰組は敗北するので、この作品ならではの特殊な意味での「日本の夜明け」が別に用意されていたと思われる)、そこまで描かれていれば作品のドラマ性もグッと上がったはずです。短命に終わり、そこまで作者の手が及ばなかったのは残念でした。


★宣伝:初めて触れた新撰組はこれでした。

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