非常に面白かったです。ぶっちゃけ原作より面白かった。
僕、原作のワンピースって、そんなに好きじゃないんですよね。あの、キャラがぶわああって泣きながら叫ぶシーンあるじゃないですか。ああいうの見ると「はーん」って気持ちになるんですよね。暑苦しくて付いていけないというか、作者の意図が透けて見えて嫌になるというか。「ほら、ここ、感動する場面ですよ。はい、どうぞ。泣いていいんですよ」的な。
でも、『フィルムZ』にはそれがない。感動の押し売りがない。感動ポイントは、非常にさりげなく、慎ましやかに、ある意味唐突に、しかし、効果的に仕込まれています。ぶわああっと泣いたりするキャラはいないけど、名もない海軍将校が静かに涙を流したりする。一瞬だけ。こういう描き方されるとおっさんグッと来ちゃう。
前作『ストロングワールド』があまりに子供向け映画で、大人の僕には何とも物足りなかったんですが、今回はそういったもろもろが解決されていました。以下、『ストロングワールド』の当時の感想。
>> 先に結論から述べておくと映画はあまり面白くなかった。良くも悪くも子供向けのいたって単純な代物である。特に残念なのがシキさんのキャラクター性で、０話で見られた奥深く複雑な人間味が綺麗すっかり失われてしまい、小者臭さすら感じる単純な悪党に堕してしまっていた。イーストブルーを付け狙う辺りをロジャー絡みの心情的問題と考えればまだギリギリ人間味が出てくるが、そこも別に強調されるわけでなし。大物海賊としてのデカさも強さも複雑な心境も見ることができず、彼の「計画」も持って回ったやり方の割にはそれ程効果的とも思えない。彼のキャラ性の浅薄さが何よりも残念であった。
>>
>> 個人的に夢想していたのは、白ひげさん並の人間味を持つシキさんが、ルフィたちと心を通わせつつも、海軍への怨嗟や己の理想のために壮大な「計画」を発動させ、海軍や麦わら海賊団たちが三者三様の立場で時に共闘し時に反目しつつもそれを阻止すべく激闘を繰り広げる。圧倒的強者であるシキさんも、両足を失い、年老いて、ルフィや海軍の強豪たちと連戦し、さらには何らかの不確定要素も絡んでついには敗北する――といったものだったので、いやまったく私の勝手な妄想と比べて文句を言うのもアレだけれど、今回の映画は残念だったと言うしかない。事態は複雑化も錯綜もせず、キャラクターの心情も単純なもので、良くも悪くもやっぱり子供向けなんだよなー。その割にギャグシーンでも子供たちの笑い声が起こらなかったのが哀しい。
一つ一つ見ていきましょう。
>> 特に残念なのがシキさんのキャラクター性で、０話で見られた奥深く複雑な人間味が綺麗すっかり失われてしまい、小者臭さすら感じる単純な悪党に堕してしまっていた。
今回の敵役はZさんという頭がイカレ気味のムキムキ爺さんなんですが、彼のキャラクター性は2時間の映画の中でしっかりと描かれています。彼の計画は必ず止めなければならないものだけど、それでも彼は単純な悪党、憎まれ役ではありません。
>> 個人的に夢想していたのは、白ひげさん並の人間味を持つシキさんが、ルフィたちと心を通わせつつも、海軍への怨嗟や己の理想のために壮大な「計画」を発動させ、海軍や麦わら海賊団たちが三者三様の立場で時に共闘し時に反目しつつもそれを阻止すべく激闘を繰り広げる。
今作では、麦わら一味と、Z率いるNEO海軍、そしておなじみ海軍の三者が敵対関係になりますが、表面的にも実質的にもちゃんと敵対しているにも関わらず、三者の関係性はもっと微妙なものです。そこに青キジという、どの組織に対しても一定の距離を置きつつ敵対的ではない特殊な立場のキャラクターが加わることにより、彼らの関係性はさらに絶妙なものになります。
>> 圧倒的強者であるシキさんも、両足を失い、年老いて、ルフィや海軍の強豪たちと連戦し、さらには何らかの不確定要素も絡んでついには敗北する――といったものだったので
今回は最後までZさんの格が落ちません。まあ確かに最後のZさんは計画遂行をだらだら先延ばししてた気がするし、本気で計画を成功させる気ならモドモドの能力で若返った方がいいんじゃね、という気はしますが、ともかく彼は最後まで強かった。強いと思わせてくれた。
総じて、今回はキャラクター間、陣営間の関係性の機微が複雑になり、感動的シーンはさほど強調されず慎ましやかに演出され、説得力が重視された作品作りになってたと思います。説得力という点では難がないわけではないんですが（ZがNEO海軍に走った理由にはもう一押し欲しかったとか）、総合的な完成度を考えると許容出来るレベルかと。ただ、単純明快な『ストロングワールド』に比べると、やっぱり大人向けの作品なので、ちびっこの評価は微妙かもしれない。前回の『ストロングワールド』も尾田先生は今回みたいな大人向け作品にしようと最初は思ってたけど、思い直して子供向け作品に作り直したようですし、実際、『ストロングワールド』の方がいい、という声もあるんですよね。それでも今作も戦闘シーンはちゃんとグニグニ動いてるし、エンディングに各キャラの子供時代を挿入するなど子供に対するサービス精神も決して疎かにはされてないと思いましたが。
個人的に良かったのはルフィが徹頭徹尾「海賊」をしてたことで、これは原作でも同じなんですけど、作中でもそれをはっきりと示すシーンがありました。うろ覚えですが、ルフィと少年とのやり取りで、「ヒーローになりたいんだ、海軍大将と海賊王どっちがいいかな！？」「好きな方にしろ、自由にやれ！」みたいな会話。海賊＝自由、というルフィの信念があり、自由な海賊が人々に迷惑を掛けている現実にも触れられ、それに対する「人々に迷惑をかける正義」に言及されてもなお、そういった倫理的アレコレから超脱して自由であろうとするルフィの「海賊としての立場」はなかなかカッコ良かったなー。冗談じゃなくて、ワンピースは本当にピカレスクロマンなんだよね。
＊＊＊
最後に、掲示板にて僕にこの作品の視聴を勧めてくれたハラミタケさんの書き込みを転載しておきます。これ見なかったら、僕は映画見に行ってなかったと思うので。
>> 日記で2009年のストロングワールド感想を読みましたが、個人的にはかがみさんが
>> 前作に期待して裏切られた事柄が、まさに今作で実現されていると感じます。
>> 今作で特筆すべきはZのキャラクター性で、真っ当な海兵として大将にまで上り詰めな
>> がらも新世界滅亡を目論むに至った彼の心情と、主人公との戦闘によって彼の得た結末、
>> その生き様こそが今作最大の魅力でありました。
>> 前作ではシキのキャラ付けが0話のみで完結して本編では疎かにされていましたが、今作
>> では映画初登場の「Z」の行動や思考について、映画のみでも観客に説得力を感じさせる
>> べく十分に配慮されています。
>> （Zについては補完資料として千巻がありますが食後酒かデザートのようなものです）
>>
>> たった2時間で「Z」のキャラクターを際立たせながら、ルフィのキャラクターと主人公
>> 性を損なわず、原作ではほぼノータッチだった海兵達の過去にも触れ、映画の本筋を進
>> めて最後は各キャラクターの心情に決着と成長を与える。
>> 男女各ファンへのサービスショットを盛り込みながらこれらを実現した脚本&監督の妙手
>> は見事だと感じます。
>> 対ファントムルージュの特記事項として、人気キャラの「青雉」がただの客寄せパンダ
>> どころかZのキャラを深めるキーマン（＋対女性客サービス要員）として大活躍している
>> ことも書き添えておきたいと思います。
>>
>> ストロングワールドは「単純豪快な中高生男子向けの冒険作品」を志向していました。
>> しかし今回はオッサン世代の心身に響く「信念と葛藤のジジイVS無鉄砲な夢追いの若造」
>> の話です。
>> 作品の構造やボスと主人公の描写など、前作や他作品と比べて分析するのも面白いかと。
>>
>> 本文にて少しでも興味を引かれたならば、是非ともご視聴&ご感想を頂きたく存じます。（掲示板より）
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