最近、歳を取って涙腺が緩んできたのか、アニメのジョジョを見てると泣きそうになってくるんですよね。このアニメは本当に製作者の愛情が溢れてるなあと、なんかもう、見てて嬉しくなってくるんです。
たとえば第二部のOP映像。パッと見、えらいきらびやかな色彩が目に付くと思いますが、あのキラッキラな色彩感覚は第二部の荒木先生のカラー絵のセンスなんですね。つまり、作り手の側には、第二部の荒木先生が醸し出そうとした雰囲気をアニメで活かそうという心意気があるわけです。オープニングをコマ送りで見たら「メメタァ」と書いてあるとか、そういう遊び心ももちろん心意気ではあるのですが、そういった細かな部分ではなく「第二部の雰囲気」という大まかなものを彼らは捉えようとしているのです。
本編を見てみても、ジョセフのとんがったキャラクターや、柱の男たちの人類を超絶した佇まい、異常に独特なポージング、大仰すぎる会話など、「ジョジョの何が面白いか」「ジョジョのどこが独特か」を彼らなりに理解し、そこを視聴者にしっかり見せる。そういう作り方がされているわけです。もちろんコアなファンからすれば不満点は色々あるかと思いますが、少なくとも制作側には「オレたちが面白いと思うジョジョ」を視聴者に伝えようという意志が見えるわけです。
さて、ひるがえって「ファントムルージュ」。この作品に、「ハンターの面白さを視聴者に伝えよう」という意志が見られるのか? ない。全くない。伝えようとする努力がまるで見られない。原作の張り詰めるような緊張感、弱者は強者に勝てないシビアなキャラクターバランス、二手も三手も先を読み合う強者の風格、念能力の利便性の適切なバランス感覚、説得力ある驚きの突破口。何もかもがない。
今回のエピソードはアニメスタッフの完全オリジナルということで、そこは確かに原作をアニメ化したジョジョとは違います。しかし、スタッフが原作ハンターの「どこが面白いか」、もっと言うならば「ハンターのどこを自分が面白いと感じているか」をちゃんと理解しているならば、たとえ冨樫先生の域には至れなくとも、冨樫先生と同じ方向性の面白さを模索したのではないか? 本作にはこの模索がない。ハンターと同じ雰囲気を作ろうという努力がほとんどない。ただ原作が培ってきたキャラクターの関係性を表面的に利用しただけ。原作の培った資産を、ただ消費しただけ。
この作品には熱意がないんです。プロは長年仕事をしてると適当にやっても及第点が取れるようになります。「プロってそんな甘いもんじゃないだろ」って思うじゃないですか。甘いんですよ。「こんなもんでいっか」で作り上げて、「まあこんなもんじゃね」と受け取る。誰かがどこかの段階で気合入れないとプロの仕事だってこんなもんです。で、本作がまさにこれ。想像するに、
……あー、キルアとゴンは友達なのね。でもキルアはゴンとの友情に不安を覚えてるのね。じゃ、二人の友情を固めればいいんじゃね。オモカゲは人の執着心から人形を作って操るキャラってことにしてー。あ、じゃあオモカゲに操られる人形と、イルミに操られるキルアをダブらせればいいんじゃね。オー、なんとなく形になったんじゃね? うんうん、劇場映画っぽいよね。友情とかさ。んじゃ、こんなもんでいっか……。
と、まあ、作ってる時はこんな感じだったんでしょう。ほいほいまとまった、ぺぺい、って感じでこれができた。そんだけ。「なんとなく形になった」以上ではないんです。制作側には「俺がハンターの1ページを刻んでやる」とか「アニメ映画史に残る作品を作ってやる」とか、そんな熱がさっぱりない。「ハンターのネームバリューを借りて、オレが長年表現したかったアレをやってやる!」なんて野望もない。「原作との整合性なんて知るか! 俺の妄想するハンター二次創作を爆発させるんだ!」そんな自分勝手な熱意すらない。人気漫画でネームバリューあるし、キャラの関係性面白いし、ちょっといじったら話作れそうだし、幻影旅団ってのが人気みたいだからいっぱい出せば売れそうだし……そんな打算ばかりが見えてくる。そうして、それぞれが「及第点でいいや」と、ぬるーい感じで作って、ぬるーく、ぬるーく、事が運んでいって、誰もクオリティを上げようと気合を入れずに、ぬるーく作り終わったら、できたのがコレ。そんな感じじゃないですかね。
アニメのジョジョを見てると、スタッフは本当にジョジョが好きなんだな、って分かって僕も嬉しくなってくる。そんなに愛されてる荒木先生がとっても幸せ者に見えてくる。テニスの映画(「二人のサムライ」)を見ても、アニメスタッフがテニスで楽しくキャッキャと遊んでる。遊ばれて許斐先生も楽しくなって一緒にキャッキャと喜んでる。そんな姿を見ててもとても嬉しくなってくる。一方、ファントムルージュはスタッフが愛も熱意も喜びもなく漫然と作品を作ってる。こんな目に遭っている冨樫先生のことを思うと悲しくなってくる。
★宣伝:あ、でも、冨樫先生ももうちょっと、その……。
集英社 (2012-12-28)