創世記
・人が蛇の頭を打つのは「蛇は毒持ってて危ないから、頭を潰しましょう」的なニュアンス。キリスト教の一部はこれを「サタンがイエスの踵を砕き、イエスがサタンの頭を砕く」と解釈してるが、当時の理解ではもっと単純な話。
・ヤハウェによるアベルのえこひいきは、カインが持ってきた農産物が「欲深い人間の工案でむりにつくらせた産物」で、アベルの捧げた動物は「何のたくみもなく自然に育ったもの」だったからとのこと。七十人訳の解釈はまた別で「カインは犠牲を正しく分かたなかった」かららしいがよく意味が分からない。
・存在するはずのない何者かに襲われることを懸念するカインの件は、ヨセフス的にはカインが懸念しているのは獣だと考えていた模様。「自然が不法な者たちを罰するためにこれらの生き物を作った」。本来はおそらく(他に人間がいないことを忘れての)うっかりミスだったと思うけど。
・ヨセフスは創世記に出てくる異常に長命な連中について触れる時に、「いや、ウソっぽいけどホントなんだよ!」と弁護しつつも、「まあ信じるかどうかは好きにすればいいけど!」って締めくくってる。当時のユダヤ人、ギリシア人は「人が千年も生きれるわけねえだろJK」って普通に思ってたらしい。
・バベルの塔は「ノアの洪水」にびびった彼らが、洪水対策のために建てたものと説明。なので高さよりもむしろ頑丈さがすごかった、と。ともあれ、これがヤハウェへの反抗心からのものという点はヨセフスも一緒。
<アブラハム>
・「万物の創造者である神は一つ」はアブラハムの発見、との解釈。ヨセフスさんの時代にはもう唯一神のアイデアは普通にあったんだな。
・ヨセフス「アブラハムがアホのエジプト人たちに、算術や天文学を教えてやったんだよ!」「エジプト経由でギリシアにも伝わったんだよ!」 ユダヤ人うぜええええwww
・「他の民族と混交しないように」との配慮からヤハウェは割礼を命じたことになってる。しかし、割礼したらセックスしないというのもよく分からん話だな。「剥き出しのちんこなんて怖くて触れない!」みたいな感覚があったんだろうか。
<イサク、ヤコブ>
・創世記34でデイナが出ていってレイプされた件は、「お祭りがあったので地元女性のファッションを見にいった」と動機が説明されてる。なお、この箇所、エホバの証人は「デイナはヤハウェを崇拝しない人たちと頻繁に交わったために面倒な問題を引き起こした」と、かなり恣意的な解釈をしてる。
<ヨセフ>
出エジプト記
<モーセ>
・ヨセフスによれば、「マナは今でもその土地の人が食ってる」らしい。ヤハウェが自分たちのためだけに与えたものとは思ってなかったようだ。
・旧約だと「努力すんじゃねえ、全部神に依り頼め」というキチガイみたいな信仰を賛美する傾向があるけど、ヨセフスの描くモーセはちゃんと戦術を練ってたりして合理的だなあ。軍事行動のための人口調査も「やるだろ? 当たり前だろ??」みたいな感じだ。(旧約だと人口調査するとヤハウェがキレる)
レビ記
・幕屋とか祭司の服装は宇宙の象徴らしい。…………ぜってー後付けだろ。
・ヨセフス流の「偽預言者の見分け方」。神が臨在した時は大祭司の右肩に付けた宝石が輝くらしい。ただし、前100年頃から(立法違反のゆえに)光らなくなったとのこと。うそくせー話だが、「本当に預言どおりになったら本物の預言」という申命記の何の意味もない判定法よりはいい気がする。
・ヨセフス「(ツァーラアト患者の扱いは)一箇の死体と変わらない」。スゲエな。
・あー、なるほど。当時、「ツァーラアト患者のモーセが、ツァーラアト患者を率いてエジプトから脱出したのがユダヤ人」という風評被害があって、それへの対向として、「私たちはこんなにツァーラアト患者に厳しかったんですよ」と主張してんのか。
民数記
・民数記のバラムの下りにおけるヤハウェの意味不明な行動(「バラム、お前、王のところに行って来い」→「行くんじゃねーよ、殺すぞ!」)はヨセフスさんによれば、キレたヤハウェが嫌がらせで「行って来い」と言ったことになってる。それを天使が命がけで止めに来てくれたんだって。
・バラムの謎の変節に関しては、「いやー、ユダヤ人を呪うなんてムリっすよ。あいつら神が付いてますからね。でも、異教崇拝させて神をキレさせれば一時的には勝利できるかもしれないっすよ」とバラムが献策したことになってる。
・妊娠中の女性を殺して流産させた場合は罰金刑、という律法の、「流産」が早生まれなのか死産なのかを、前にエホバの証人の人と議論したことがあるが(「聖書は胎児も人間扱いとか言って、胎児殺しても罰金刑じゃん」)、やはりヨセフスさん的にもここでの意味は死産を指すらしい。
・ヨセフスさんいわく、サウルがアマレクびとの王アガグを(皆殺しにしろ!というヤハウェの命令に背いて)助けたのは「アガグがイケメンで救う価値があると思ったから」らしい。旧約では動機は不明。他にもアガグ王が「財宝を見せてやるから」といったとか、色々考えられたらしい。
・ダビデの人口調査にヤハウェがキレたのは、人口調査の際にヤハウェに収めるべきカネを忘れてたから、とヨセフスさんは解釈(出エジ30-12参照)。
列王記
・ユダヤ古代誌メモ。当時の「ソロモン式除霊法」が書かれていた。①相手の鼻の先に指輪を近づける②指輪の下にソロモンの処方箋通りの薬草の根をぶら下げる③それを嗅がせると相手が倒れ、悪霊が鼻から出てくるのでソロモン製の魔除けの呪文を唱えて悪霊に「戻ってくんなよ」と命令する。
・旧約だと「ツロの王が難問(クイズ?)を出したがソロモンは見事に答えた」となってるけど、ツロ側の記録だと「ソロモンの難問を華麗に解いた」とか、ディオス(何者か分からない)は「ツロ王もソロモンも互いの問題を解けなかった」となってる。
・ヨセフスさんはこういった(自文化に不利な)外部の記録を引用する程度には、自分たちのことをちゃんと見えてたと思われる。「オレたちの中ではこう伝わってるけど、他では別の伝わり方してるよね」くらいの感覚は当時もちゃんとあったんだろうなあ。
・モアブ人の王が神(モロクか?)に長子を生け贄に捧げたらヤハウェが負けちゃった件は、「モアブの王がアホなことを始めたから憐れに思って攻めるのやめてやったんだよ」という解釈をしてるらしい。
・ヨナ書に関しては「荒唐無稽な話だけど、こう書かれてるから」とヨセフスさんも困惑してる。なお、ニネベの人が改心したり、ヨナがヤハウェにブチギレたりした点に関しては全スルー。
・ヨセフスさんのサマリア人評「彼らはユダヤ人が繁栄しているのをみれば、自分たちはヨセフの子孫であるから、われわれとは本来結びついている、とぬかしてわれわれを同族扱いするが、ひとたび困難な状況に置かれたわれわれを見ると態度を豹変させ、われわれとは一切関係がなく、われわれが彼らに友好を求めたり、種族関係を云々するのはもってのほかだと主張し、自分たちは多民族の移住者だと宣言する」。サマリア人に対する憎しみがありありと現れてるなー。イエスはこんな状況で「善きサマリア人のたとえ」とか言ってたのか。
・バビロン捕囚でおなじみのネブカドネザル(ネブカドネザル2世)は、世界七不思議の「バビロンの空中庭園」を作った(という伝説がある)人らしい。名前だけ知ってる単語が不意に繋がると嬉しいな。
エズラ記
・捕囚後、ユダヤ人が神殿を建ててる時にサマリア人が手伝いに来たら、ユダヤ人が「貴様らの手伝いなどいらん。帰れ!」って言った件は、ヨセフスさん的には「建設は手伝わせないが出来た後に礼拝に来るのはOK」ということらしい。確かに旧約でも明確に断ってるのは再建のお手伝いだけだなー。
以下、新約聖書時代篇
・ヨセフスさんによれば、律法の書(旧約聖書)について記述しようとした歴史家が発狂したらしい。「自分が神的なことに興味を持ち、凡俗の徒(不浄なる人々)に向かって解き明かそうとした」ことが原因だと思い、それをやめようとしたら正気に戻ったんだって。現代の宗教学者全滅じゃねーか。
・子供の頃、インディージョーンズ見て、「なんで契約の箱を開けたら周りの人死んじゃうの?」って素直に疑問に思ったものだけど、旧約聖書やユダヤ人の反応を見る限り、ヤハウェやら契約の箱、聖書なんてのは呪いとほぼ紙一重で、インディーのあの描き方で正解だったんだなあって思う。
・ユダヤ古代誌に、ギリシャ文化に擦り寄ろうとしたユダヤ人が「割礼のあとを消した」っていう記述があるんだけど、割礼の後って消せるの?? そもそも僕は割礼を包茎手術みたいなもんだと思ってるんだけど、その認識で合ってるんだろうか??
・「ウギャー、安息日を守って戦わなかったら普通に敵にブッ殺されたぜ~~」という有名なユダヤ教のエピソードはマタティアが指導していた時のマカバイ戦争におけるもの。どうもこの時以降、安息日にも応戦はするようになったらしい。自分から仕掛けるようになったかどうかはよく分からん。
ヘロデさん
・ヘロデさんは可哀想な人で、円形競技場を作ったり、体操競技会を開いたりとローマっぽいことをしたら、「ユダヤの伝統にねえことをするんじゃねえ」と民衆がキレ出して、そいつらを一生懸命なだめてんだけど、一部のキチガイは納得せずに暗殺を企ててきやがる。部下の報告で事無きを得ても、今度はその部下がまたキチガイに惨殺されて、犯行現場を民衆は見て見ぬフリをするっていう。
・でも、そうやってヘロデが親ローマだったから、いざ大飢饉になった時はローマ人(エジプトの総督ペトローニオス)に食料売ってもらって助かったりしてるんだよね。しかもこの時は自民族を助けただけではなく、周辺諸民族まで助けてあげたらしい。イイ人じゃん。
・家庭内では肉親が互いに讒言しまくるので、周りに煽られて妻を殺しーの、息子を殺しーの、さらには腹違いの息子が扇動してたことが分かってその息子も殺しーので、ほんとかわいそう。王様になんかなるもんじゃねーよなー。
・ヘロデに対する私見としては、彼自身、乱世の王者ということもあって聖人君子というわけにもいかず、かなり非人道的なこともいろいろやってきてるんだけど、にしても可哀想なくらい家族内の不和と、民衆の訳の分からんキレ芸に悩まされた人だと思う。そりゃあ民衆にも肉親にも人間不信になるよ。仕方ない。
・一方、そんなムチャクチャな状況にありながらも、なんだかんだでユダヤを王国として守りぬいて、ローマとの関係も良好。アメと鞭もしっかり使い分けてたので、為政者としての力量は突出してたんじゃないかなー。
・息子のヘロデ・アグリッパスは若い頃は浪費→借金→夜逃げとかしてたらしい。それがなんやかんやで(一時は獄に繋がれたりもしてたのに)王様になって帰ってきたんだからすげー話だよなー。
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