おお、神は三度我を試された!
一度目は『エンドレスエイト』において。神と共に永遠を生きる覚悟を問われた。二度目は『溜息』において。神は「お前の愛する者を殺せ」と仰られた。そして、三度目。『消失』において、神はついにその存在を隠されたのである。神に「死ね」と命じられている間は幸福そのものに他ならぬ。問題は神を見失った時だ。もはや神の慈愛に抱かれる憩いの日々は終わった。神なき今、我々は主体的に神を探し求めねばならぬ。自らの手で、神とその狂気とを、掴み取らねばならぬのだ!
***
(解説)
ハルヒは神である。地球全人類の生はハルヒに一時の感興を与えるためだけに存在する。ハルヒの一瞬の笑顔は人間一人の命よりも遥かに重い。ハルヒの一時の快楽のためだけに生命は無碍に消費される。そして、我々は一人の人間として、その運命を受け入れ、ハルヒへの感謝を捧げるのである――。ハルヒへの絶対的隷属感情。そう、それこそが「ハルヒ萌え」である。
キョンは幸運である。キョンはこの事実を知る数少ない人間であり、我らが神、ハルヒのために意志的にその身を捧げることができる。キョンはハルヒの神官であり奴隷である。ハルヒのために身をやつし精神を焦がし艱難辛苦を引き受ける。キョンはそのような幸運に恵まれている。
そしてハルヒは――、キョンを、我々を三度試された。一度目は『エンドレスエイト』において。ハルヒとの永遠の生を送る覚悟を試された。答えは無論イエスである。二度目の試練は『溜息』であった。朝比奈みくるを責めるハルヒは我々に問いかけてくる。「お前は私のために愛する者を殺せるのか?」と。ハルヒのためなら己を犠牲にすることも厭わぬ信者たちも、この問いにはウッと息を詰まらせたことだろう。
だが、三度目の『消失』の試練はこれらより遥かに重い。我々が血肉を捧げるべき神がこの世から失われたのである。神の不在という最大の試練に我々は耐えうることができるだろうか。ハルヒに死ねと言われれば死ねる。ハルヒに殺せと言われれば殺せる。だが、そのハルヒがいないということは――?
ハルヒに「死ね」と言われるのもハルヒに「殺せ」と言われるのも幸せであった。なぜならそこにはハルヒがいたから。我々は常にハルヒの狂気と慈愛に抱かれていた。だが、『消失』の世界にハルヒはいない。代わりに、ハルヒのいない世界には「死」も「殺人」もなかった。平穏な――、正気の世界が広がっていた。
ここで、我々は選ばなければならない。神からの三つ目の試練だ。神もハルヒもいない平和で正気の世界か――。それとも、神とハルヒに繋がれる狂気の世界か――。そう、我々は主体的に、自らの意志で狂気を選び取らなければならないのだ。
キョンは走った――。自ら狂気を掴み取るために。ハルヒに全てを奪われハルヒから全てを与えられる、偉大なる隷属の日々を取り返すために。――なぜかって? 答えは決まっている。ハルヒの笑顔は地球人類全ての命よりも重いからだ。"改変"後のハルヒの笑顔はあらゆる正気をドブに捨てても贖うべき商品であった。よって、万感の想いを込めて、私は『消失』にこの言葉を贈ろう――。
――ハルヒかわいい、と。
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