イルでハーコーなリアルラッパー日蓮。
マジでリアルな修行時代
・賤民の子と自称。（漁師だが網本という説もあり、実際はそんなに貧しくもなかったらしい。生まれの貧しさとか裏街道を歩いてきたとかはギャングスタの基本）
・釈迦は一人なのに念仏、禅、真言と、さまざまに分かれている。どれが真実の教えだろうかと考えた。（これが後に「法華経だけがリアル」という結論に至ったのだろう。しかし、釈迦一人の教えがさまざまに分派したように、現代では日蓮の教えもさまざまに分派しているんだよね）
・虚空蔵菩薩から智慧の宝珠をもらう。これにより、経典の勝劣を見極められるようになったらしい。（法華経がリアルだという主張にも一応理由付け（？）がなされていた）
・４年間ほど浄土宗と禅を学び、「もう浄土宗はマスターした」といって早速ディスりはじめる。
・比叡山で学ぶ。日蓮いわく「マジでリアルな法華経の行者はオレと最澄だけ」。（実にリアルだ）
・比叡山で勉強した結果、法華経がマジでリアルだと思い込む。（五時教判という天台宗の思想があって、そこでは法華経が一番素晴らしいと教えていたので。日蓮もオリジナルな教えを産み出したというよりは、この天台宗の思想に忠実（というか原理的というか）な態度を示した感じだろうか）
・比叡山は法華経第一の教義を失っていたので（比叡山は法華経を第一とするが他もいろいろと勉強するところなので）、「リアルじゃねえ（この山は濁れる山なり）」といって山を降りる。
ドゥープでハーコーなディス時代
・初めてのライブ（説法）で、「リアルなのは法華経だけ」「念仏を唱えるワックは地獄に落ちる」とディスる。念仏ラッパーは怒り、出禁（追放）になる。（当時は天災が相次いで人々はしょんぼりしてた。それを見て法然、親鸞らがパンピーにも分かりやすい浄土教を説いたわけで、おそらく当時の感覚からすれば念仏を唱えることで人々は精神の安寧を保っていたと思われる。そんなところにリアルラッパーが現れて、「お前らは間違っている」「絶対に地獄に落ちる」とか言うんだから、そりゃムカつくのも当然だ）
・追放後はゲリラライブ（辻説法）を行い、禅や念仏をディスり続ける。通行人に殴りかかられたりもするが、ファン（弟子）もできる。
・他の宗派の人が問答を挑んできたらMCバトルで撃退したりした。
・念仏（浄土教）は死後の極楽往生を願うものだが、それを現実逃避と考えて、現世を浄土に変えようとした。（現世を浄土に変える、という辺りから、現在の創価学会のように政治への介入姿勢が産まれたのだと思う。もう少し哲学的な側面から見ると、「法華経」自身が仏であるという思想があるので、釈迦は既に死んでいるが、「法華経」を釈迦と考えると、釈迦はまだ生存しており、時間を超越していることになる。また、仏は外部にいるのみならず私たち一人一人の中にも仏がいると考えており、題目を受け取ることで内なる仏を自覚する。つまり、外部的な仏と私の間に法華経（これ自身も仏だが）が媒介として入ることで私も仏となり、そして、仏となった以上、現世は既に永遠の浄土であることになる。これはキリスト教の聖書解釈にも似ている気がする。まあ、要するに現世を浄土に変えるといっても、政治をどうこうというレベルだけではなく哲学的・思想的な面も強いということ）
・法然は法華経を「難解だから捨てろ」といった。これに対して日蓮はアルバム『守護国家論』で「天変地異の根元はコイツのせいだ」と痛烈にディスった。（パンピーのために布教した法然の立場からすると、「法華経を捨てろ」というのも当然のように思えるが、どうも法然もあれでかなり過激な人だったようで、法然は法然で念仏をガンガン押す一方で排他的なところがあったらしい。それに対して、日蓮はある種、反動的になったのだと思われる）
・アルバム『立正安国論』を為政者に献上し、「天変地異は禅とか念仏のせいなんで迫害しよう」「あいつらを迫害しないと外国が攻めてくるぞ！」とか言い出す。当然、無視される。（客観的に考えてヤバイ。ただし、日蓮はこれで何気にピースな人なので、迫害といっても殺すとかではなくて布施をやめろという感じ。「HIPHOP以外のアルバムの不買運動」を政府に呼びかけたニュアンス）
ヤバすぎるアンダーグラウンド時代
・こんなことしてるから焼き討ちにあう。「オレを殺そうとしたのは幕府のやつらだYO！」とか言ってたら（実際に北条家が首謀者だったとこの本には書いてあるが……）、「悪口の咎」で伊豆に流罪にされる。
・流罪人を管理してる人が病気で苦しんでたので、日蓮が病気平癒の祈願を行ったら治った。なので、その人は感謝してファンになり、日蓮をサポートした。（当時の時代状況的には当然のことだとは思うが、本来の仏教はあまりこういった呪術的なものは押し出してないわけで、日蓮が逆境を順境に変えたとはいえ、その契機が呪術だったというのは現代人の科学的感覚からすると素直に飲み込めない、というか、素直には感心できないところである）
・焼き討ちとか流罪とかされてても反省の色は一切なし（まあ、宗教者だから当然だけど）。「末法に法華経を広めると必ず難に遭うと書かれてるYO！ オレがちゃんと法華経を実践してる証拠だYO！」とすごいポジティブシンキング。（「これは神からの試練だ！」というユダヤ教にも似てる）
・なんで神々が助けてくれないのかというと、自分は過去世で法華経を誹謗したからだと考えたらしい。それで、いま自分を迫害している人たちも来世では自分のように法華経の行者となって、周りから迫害されて（過去世での悪業がチャラになって）成仏できるのだから、ある意味、迫害者をも救っていると考える。なので、迫害が起こるくらい強烈に布教するのが正しいという論理が導き出されて、創価学会はあんなに激しく折伏しているらしい。
・伊豆流罪が許されてから地元で布教してたら、地元有力者が徒党を組んで襲ってくる。弟子が何人か死んで、重症を負う。（なんというギャングスタライフ。ちなみに本書では「不思議なことに、この有力者がその時落馬して大怪我負ったので、敵は引き上げていって一命を取りとめた」と書かれているが、不思議も何も応戦しただけだと思う）
・蒙古から国書が届く。日蓮は「オレの言ったとおりだYO！ 速く法華経に帰依するんだYO！」と幕府にいうが、当然無視される。
・あんまり無視されるんで、当時の仏教界のビッグネームに「MCバトルでケリをつけようぜ」と挑戦状を送るが、当然無視される。
・大干ばつに遭ったので、当時の高僧良観に幕府が雨乞い祈祷を依頼する。日蓮は「７日以内に雨が降らなかったら、お前はフェイクだってことだYO！」と言い出す。良観さんはたぶんすごい迷惑。（あまりにムチャクチャな言い分であるが、「日蓮入門」によればこれの意味は「降っても降らなくてもいい」という暗黙の諒解の上に成り立った当時の儀式行為に対する問題提起らしい。そう考えると、それなりに意味はあるような気がするが、日蓮は「あいつら雨降らなかったから悔し泣きしてたYO！」とか（おそらく見てもないし、良観は実際に泣いてもないだろうことを）自慢げに書いてるので、今の感覚から見るとかなりカッコ悪い。あと、後代の伝説では日蓮が代わりに簡単に雨を降らしたことになっている）
・こんなことしてるんで、また逮捕される。今度は佐渡に流罪。
・護送中、八幡菩薩に向かって、「なんでオレを護らないんだよ、このワックやろう！」と大声でディスる。（リアルすぎる。ちなみにこの頃はまだ上述の「前世で法華経を貶したから加護が得られないんだ」論に到達していない頃と思われる）
・ファン（信者）たちから、「もう少し穏やかなリリックを書いた方がセルアウトできますよ（もう少し穏やかに教えを説けばこのような難にあわずに済んだのでは……）」といわれるが、「難に遭ってるということはオレがリアルということだYO！」と言い返す。（まあ、親鸞も流罪になってっけどな！）
ヤバすぎるスキル時代
・流罪中に熱心な念仏信者である阿仏房が（おそらくブッ殺そうと思って）日蓮を訪れるが、議論を交わした後に逆にファンになる。（すごいことではあるけれど、親鸞も自分のところに来た刺客（弁円）をファンにした逸話があるので、念仏も日蓮もその点では変わらない。敵対者をファンにするというのは、パウロもそうだし一種のテンプレなのかも）
・「法華経には、法華経を広めるものは迫害に遭うと書かれているが、実際に迫害にあったのはオレだけだYO！ MC最澄すら迫害にはあってないYO！」とか言い出す。これが高じて晩年には「オレは菩薩のリーダーの生まれ変わりかもしれないYO！」とか言い出す。（もう誰にも日蓮は止められない……）
・布教方法には二つあり、「摂受」は無知な人や悪人が多い時に、緩やかに他者の長所を育成して行う方法。「折伏」は誤った教えを説く人が多い時に、激しく議論して正義をあらわす方法。日蓮は「だから、今の時代は折伏をすべきだYO！」といった。（いまの時代も何も、釈迦の頃から「誤った教え」は溢れてたわけで、摂受なんかする機会は永遠にない気がする）
・アルバム「観心本尊抄」で天台の「一念三千」の教えを紹介する。（誰にでも仏性があるので法華経で仏になりえるという感じのこと。上で書いたように実際は結構な思想だと思う。難しいので「あんまり人に見せんな」って日蓮も言ってたらしい）
・「一念三千が分からない人も妙法蓮華経の五文字に功徳が集約されてるので、南無妙法蓮華経だけ唱えればいいよ」といった。（正確には唱えるだけではダメで「口に唱え、心に深く味わい、身に実行する」らしい。「身に実行する」というのがさっぱり分からんが。しかし、「ある文句を重視する」という点で念仏の影響を受けていることは明らかであり、日蓮自身としても、念仏の「パンピーにもやさしい」路線自体は特に問題なかったのではないかと思われる。となれば、念仏の問題点は法華経を重視しなかったことに集約されるのだろうか。だとすれば五時教判の問題的に（五時教判の論は歴史的には誤りである）やはり法華経を絶対視する思想は、相対化されざるをえないのではないだろうか）
・許されて佐渡から還ってきた日蓮は幕府に召喚され、「次、蒙古はいつ来るの？(´・ω・`)」と聞かれる。なんだかんだで日蓮の予言（？）は当たってたから。日蓮は応えて「すぐ来ます。もうヤバイです。いますぐ禅とか念仏とかを迫害しましょう。マジで」。幕府「いや、ちょっと、マジ、それムリだから。地位と名誉あげるから、蒙古調伏の祈祷してくんない？(´・ω・`)」。日蓮「てめえ、オレをセルアウト呼ばわりする気か！」。というわけで、結局、幕府の意向に反して身延の山に引きこもりました。（ハーコーすぎる）
・この後は弟子に教えを伝えたり手紙を書いたり本を書いたりしてる。山に篭ったとはいえ死ぬまでハーコーで、「オレは上行菩薩の生まれ変わりかもだYO！」とか言ってた。
結論
こう書くとまるで狂人としか思えずドン引きだが、しかし、日蓮の行動は、良く言えば「正しい教えを伝えないと国がヤバイ」という宗教的情熱に駆られてのものであり、善意での行動だとは思う（まあ、それを言えば二・二六事件だって善意での行動だが……）。日蓮の言にはフェミニズムのはしりのようなものもあって先進的な部分もあるし、法華経の教えが悪いものとも思えない。全てを否定することはないだろう。
問題は日蓮の自己のドグマを絶対化する思想傾向が、相対的視点になれた現代人からすると不気味に映るところであり、カルト的に見えるところだろうか。ここらへん、同じく排他的であったらしい法然が温厚なイメージを獲得しているのに比べると、大分損をしているような気がする。個人的には、信者が言っていた「もうちょっと穏やかに教えを説けば……」というのに同感。あまりに急進的過ぎる。二冊読んでの日蓮のイメージは「メチャクチャ頭が良くて、死ぬほど思い込みが強くて、死すら恐れずに、本人としては100％善意で行動している」という感じ。うん、客観的に見て、すごく扱い辛そうな人だと思った。まあでも、そんな人のいう事だからって全部間違ってるってわけでもないってことで。
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