【9/19】まとめ「ゾロアスター教」


 読んだー。なんかすごい面白かった。

ゾロアスター教 (講談社選書メチエ 408)ゾロアスター教 (講談社選書メチエ 408)
青木 健

講談社 2008-03-11
売り上げランキング : 55109

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 
・古代アーリア人の宗教(多神教)の流れ

→インドへ行った人たちはヒンドゥー教へ
→イランの人たちはゾロアスター教からイスラム教へ改宗
→中央アジアの人たちはゾロアスター亜流(ケン教か?)の後、消滅
→ヨーロッパではゲルマン神話となった後、キリスト教へ改宗


・ゾロアスター教の特徴

「善と悪との闘争」「人間存在は善の戦士」「世界の終末には救世主」「善の勝利」

→善と悪の二分法。「光と闇」「生と死」「犬とカエル」など。善と悪の分類は理性的なものではなく、啓示や、民族の生活文化の中で指定されたもの。土俗的な信仰が色濃い。(なので、みんなでカエルを探して叩き潰すのが「善行」だったりする)


・すっごく最初の方のゾロアスター教

1、ザラスシュトラさん(以下、ザラさん)(BC12~9頃)が古代アーリア人の宗教の神官階級として生まれる。
2、ふつうに家業を継いでりゃ豊かなのに、何を思ったか、その宗教に反旗を翻し、自分で作った神のアフラマズダーがどうのこうのと言い出して、みんなに嫌がられる。
3、いたたまれなくなって放浪生活に入る。従兄一人しか信者にできない超弱小教祖生活。
4、なんの間違いか、ある部族の王様にすごく気に入られる。政略結婚しまくって権力Get!

 当時はもちろん新興宗教なので、古代アーリア人の宗教を信仰する周りの人たちは、「あそこの王様が変な新興宗教にハマりやがった……」と嘆いていた。

 なお、この部族はそのうち消滅するので、本格的にゾロアスター教の時代が来るのはササン朝ペルシアのとき。(ササン朝ペルシアというと、映画「300」の敵方のアレね←これ勘違いでした。300のはアケメネス朝ペルシア


・ザラさんのやったこと

1、オリジナル呪文「ガーサー」を作った。(これまでの古代アーリア人の宗教でも呪文はあったが、それにオリジナル呪文を付け加えた。なんという中二病!)
2、オリジナル神である「アフラマズダ」を作った。(なんという中二病!)
3、アフラマズダが唯一崇拝に値するとし、古代アーリア人の宗教の自然神たちは悪魔扱いした。

 ただし、ザラさんの死後、後継者のみなさんは「そんな強硬的態度じゃダメだよ」と思い、古代アーリアの神々を復権させていく(なぜなら庶民たちは古代アーリアの神々の方がなじんでたから)。アナーヒータやらウォルスラグナなどが復活。ミスラ神なんかは教義上はアフラマズダの下位だけど「全能者」扱いされるなど、訳の分からないことに。古代アーリアの宗教と曖昧になっていく。


・世界宗教史上初の倫理宗教

 各個人に善と悪との選択を迫る。その意味では確かに倫理宗教だが、ただし、善行とは近親婚やカエルをたたき潰すこと。

 なお、個人の死とは善なる生命が悪に敗北した結果であり、死後4日目に魂が死体から抜けていくので、3日目までは呪文を唱えて悪の勢力から魂をガードする。肉体(死体)は敗北の象徴なのでハゲタカに食わせたり、直射日光に当てたりして、骨だけになったら断崖絶壁の横穴に投げ込む。

 この個人の死とは別に世界の終末もザラさんは予言してたが、いつになっても起きない。なので、後の世の人たちが、ザラさんの保存された精子から生まれた救世主が悪を滅するんだ、とか言い出す。この苦し紛れの救世主思想が、大乗仏教の未来仏信仰や、ユダヤ・キリスト教のメシア信仰に影響する。


・ゾロアスター教はどんな儀式をするの?

 ザラさんの宗教改革とは別に、儀式自体はこれまでの古代アーリア人の宗教の呪術を濃厚に受け継いでいる。主に以下の4種類に分類される。

1、ヤスナ祭式:ハオマ草(何なのか不明)を絞ってアフラマズダに捧げる。捧げるといっても神官が飲むので、ヤクでラリってる可能性がある。
2、浄化儀礼:死体に接した時など、穢れが多い時に行う禊の儀式。全裸で頭から牛の尿をかぶったりする。一見ハードスカトロだが、当時は衛生作用のある液体がアンモニアしかなかったためらしい。ちなみに結婚式だと浴びるだけじゃなくて飲むぞ!
3、通貨儀式:成人式、神官叙任式、結婚式、葬式など
4、年中行事:盂蘭盆(お盆)みたいなことをする。あまりに似てるので盂蘭盆の起源かもしれない。

 なお、年中行事はカレンダーにしたがって行うわけだけど、そのカレンダーがはっきり決まってないので、どのカレンダーを採用するかで現在のゾロアスター教徒(パールスィー)は派閥が分かれてるらしい。


・国教までの道のり

 最初に庇護してくれた部族(ナオタラ部族国家)が滅んでから、どうやって存続したのかは不明。しかし、とにかく、このゾロアスターの神官階級から出てきた人がササン王朝皇帝になったので国教に採用される。その頃、ペルシアは、聖典・教義が整備されたマニ教、キリスト教、仏教などに囲まれていたため、慌てて聖典を作り、教義を整備する。なので、聖典「アヴェスター」はこの頃作られた。キリスト教成立より後だったりする。


・ゾロアスター教の世界論

 アフラマズダーによる善の世界と、アンラマンユによる悪の世界が別々にあって、間に虚空の神ヴァーユが挟まってる。ある時、暗黒の勢力が挑戦して虚空が消滅、善と悪が入り混じり、今の世界となった。アフラマズダとアンラマンユがお互いに善と悪の創造物をいろいろ作って戦った。善の存在として人間も作られたが(初めての人間は球体だったらしい)、こいつはあっさり負けた。しかし、その精液が大地にしみこんで、30年後、男女が生えてきた。これが人間の祖先。


・周りの宗教への態度

 ゾロアスターは正義の宗教なので、周辺属国にもあまねく宣布されるべきだが、ファッキンキリスト教やマニ教が妨げている、と考えていた。

 キリスト教に対しては、「父と子供が一緒なわけねえだろ。一緒だったら子供はどっから出てくるんだよ」的なことをいってる。

 キリスト教の禁欲、ヒンドゥー教の苦行を排し、マニ教の出家主義に対しては「悪魔の誘惑」とすらしている。ゾロアスター的には「生産活動に従事し、義務を果たして、後は人生を楽しめ!」っていうのが善。(この享楽的傾向はイスラムに改宗した後、「放蕩児(リンド)のスーフィズム」に繋がるらしいが詳細不明)


・ササン朝ペルシアの文化

 基本的に階級社会だが、カネはあったので文化的には華麗。まず、音楽は大好き(適度な快楽は善だから)。貴族は皇帝の肖像画を飾ったりしてたので絵画芸術もあった(ただし、ゾロアスター教の神や教祖の造形化は禁止されてた)。食事ではタブーはなし。牛も豚もバンバン食べる。酒(ワイン)も飲む。基本は肉食で、あとピラフとナン。断食とか菜食主義とかアホじゃねえの、という態度。ちなみに料理では聖火を使うので、正式な料理の時は(より清浄な存在である)男が料理する。


・ペルシアがイスラムに征服された後の展開

 人頭税を払って信仰の自由は獲得する(イスラム教は改宗しなくてもカネさえ払えば共存を許してくれる宗教なので)が、経済的に不利なのでみんな続々と改宗していく。ギリギリな感じでそれからも300年ほど続いていくが、その間にこれまでの呪文なんかを文献化してたので、今でもゾロアスター文化がなんとか知識として伝わっている。


・現在のパールスィー

 パールスィーとは「ペルシアから来た人たち」。イスラムに征服された故郷があまりに窮屈なので宗教的自由を求めてインドへ渡ったゾロアスター教徒たちのこと。これが、インドへ渡って祭式儀礼を保存したのはいいが、いかんせん所属コミュニティが大幅に縮小したため、(経済的問題から)神官階級の職掌も縮小せざるをえず、儀礼を司る役職以外全部なくなった(司法や行政、神学部門など)。また、日常言語が現地のものになったため、以前に書いた自分たちの古典が読めなくなった。牛と豚はヒンドゥー教徒とイスラム教徒に遠慮して食えなくなった(羊を食いだした)。

 さらに、生活文化が現地になじんでヒンドゥー化し、ピラフの代わりにカレーを食べはじめ、魚が獲れるようになったので魚料理が発達し、味付けも薄味から香辛料を効かせた料理に代わった。そして、今までは死体は路上に投げ出してハゲタカに食わせていたが、ヒンドゥー教徒がキモがるので「沈黙の塔」を作り、そこで異教徒の目に触れないように処理するようにした。

 そんなパールスィーだけど、インドではパールスィー自体が一つのカースト階級であったため、コミュニティ内部での結婚が続き、幸いにもコミュニティは維持できている。


・ザラさん一人あるき

 ザラさんはその後、なぜかイスラム教徒に勘違いされて(わざと?)、プラトンと同じ思想を説いた神秘家として尊敬される(そんなはずがないんだが)。教祖が褒められてるので、なんだか気分の良くなったゾロアスター教徒たち自身も勘違いし始める。それからヨーロッパに伝わって、さらに神秘化されて、さらに勘違いされる。

 西洋にザラさんの虚像を導入したのはゲオルギオス・ゲミストス・プレトンという人で、「ザラさんはプラトン以前にプラトン主義哲学を、イエス・キリスト以前にキリスト教を説いた偉大な先覚者」とか言い出して、プレトンさんは大学者だったのでみんな鵜呑みにする。その結果、西洋でのザラさん像は「バビロニアの占星術の大家、プラトン主義哲学の祖、キリスト教の先駆者、マギ魔術の実践者」「詩的、魔術的、宗教的、宇宙的知識の最高の体現者」という凄まじいものとなった。

 しかし、19世紀になって、パールスィーが保管してた文献が西洋に紹介され、さぞ叡智に満ちた内容だと思ったら訳の分からん呪文しか書いてなくて、みんな幻滅して目が覚めた。だが、人智学教会のルドルフ・シュタイナーなんかは凄まじいザラさん像をなぜか持ち続けていた。

 そして、さらに訳の分からんことに、ニーチェが「ツァラトゥストゥラはかく語りき」で、突然ザラさんを超人化する。その影響か、今度はナチスがザラさんをアーリア民族の英雄に設定する。そんなドイツのムチャクチャなザラさん像が日本に入ってきたので、日本ではゾロアスター教がなんとも神秘的なイメージになってるけど、でも、実際はこんなもんですよ、というのがこの本の結論。

ゾロアスター教 (講談社選書メチエ 408)
ゾロアスター教 (講談社選書メチエ 408)青木 健

おすすめ平均
starsとっつきにくそうで実は読みやすく、知的好奇心も刺激される良書
stars古代アーリア人の諸宗教の一つとしてのゾロアスター教
stars古代イラン、インドに興味のある向きはぜひ一読を。
starsこれはちょっとすごい

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

【過去ログ】

【カテゴリー】

TOPアドレス
当サイトのTOPアドレスは
http://dansyaku.cagami.net/
です。
管理人:かがみ
パンクロッカーで作家。忙しくてもジャンプは読むよ。許斐剛先生を尊敬してます。

好きな漫画:テニスの王子様
好きな映画:テニスの王子様
好きなアニメ:テニスの王子様
【僕の本】

kaiketu_mini.jpg

[NEW!]
ダンゲロス1969
HP / amazon


kaiketu_mini.jpg

怪傑教師列伝ダンゲロス
amazon


bakadark_mini.jpg

戦慄怪奇学園ダンゲロス
amazon


bakadark_mini.jpg

ダンゲロス・ベースボール
amazon


bakadark_mini.jpg

「バカダークファンタジー」としての聖書入門
HP / amazon


jingi_mini.jpg

かわいい☆キリスト教のほん
HP / amazon


jingi_mini.jpg

作ってあげたいコンドームごはん
(amazon


jingi_mini.jpg

仁義なきキリスト教史
HP / amazon



飛行迷宮学園ダンゲロス
HP / amazon



新装版完全パンクマニュアル
HP / amazon



戦闘破壊学園ダンゲロス
HP / amazon



もしリアルパンクロッカーが
仏門に入ったら
HP / amazon



完全教祖マニュアル
HP / amazon



よいこの君主論
HP / amazon



テニスの王子様
[全国大会編]
爆笑・恐怖・激闘
完全記録

HP / 販売サイト



完全恋愛必勝マニュアル
HP / amazon



完全HIPHOPマニュアル
HP/amazon



完全覇道マニュアル
HP/amazon




完全パンクマニュアル
HP/amazon

amazonならびに全国書店にてひっそりと販売中。
【最新のエントリ】


誰でもどこでもLINK FREE!