【8/8】テニスミュージカルはアザトースと見つけたり


 テニミュを見ての個人的感想。

 
 ***

 以前にDVDで見たときに思ったのですが、テニスミュージカルというやつは、ミュージカルうんぬんではなく許斐剛が面白い。つまり、原作が面白いということです。それがミュージカルという表現形態を取っていることの良し悪しはさて置き、面白いことは間違いなく面白い。だって、原作が面白いんだもん。

 ……と、以前にDVDを見たときは思ったものです。しかし、実際にナマでテニミュというものを見てみると、――まあ、これは演劇やダンス、ライブ一般に言えることですが――、数人の成人がダイナミックな動きで歌い踊っている姿というものには、やはりある種の迫力があるわけです。これはDVDでは得られない生の感覚であり、「原作が面白い」以上の「何か」が、やはりナマのテニミュにはある訳です。その「何か」とは、「なんだ」という話ですが…………

 さて、話が前後して申し訳ないのですが、最近、アニマックスでアニメ版テニスを見ていると、アメリカからケビンという少年がやってきてるのですね。それで、ケビン少年は各中学校を回って、不動峰では石田弟を、氷帝では日吉を、そして、山吹中では室町や亜久津を殺人テニスでノックアウトする訳です。このように作中では、傲岸不遜な態度と乱暴な攻撃的テニスで悪役として描かれているケビンですが、そんな彼が実際に越前少年と対面すると…………、

 これがまるで、「魔王に立ち向かう勇者のように」思えてしまうのです。もちろん、言うまでもなく魔王は越前少年ですね。ケビンがどれだけ作中で悪逆無道に描かれていようと、あの"越前"という圧倒的畏怖の前ではケビンもチャレンジャーの立場を免れ得ない訳です(手塚九州編で、手塚相手に調子に乗る獅子楽の連中に憐れみしか覚えなかったように)。原作において、気絶した跡部さまの髪をバリバリと刈り、即死必至のSUGD大車輪山嵐を切り抜け、五感喪失しながらも幸村を降した越前少年には、いまやそれほどの修羅の如き相が備わっているのです。

 また、総じて見るに、そもそも青春学園という集団そのものが人外魔境です。倍返しの百錬、未来予測の才気、確実に決まる零式サーブ、あらゆる打球をアウトにする手塚ファントムと、無体すぎる必殺技を四種も持つ手塚をはじめ、相手の腕を破壊することしか考えぬ人間凶器河村、天候を操り心を読むテニス仙人桃城、人外の法であるシンクロを操る菊丸・大石と、だれ一人取っても正常な人間とは思えず、とてもまともなコミュニケーションなど取れそうにありません。端的に言って、怖ろしい。例えるなら、青春学園のやつらが乗る戦艦がテロリストに襲われた場合、青学は当然のようにテロリストを返り討ちにした上で、勢い余って乗客すべてを皆殺しにしかねません。やつらはそれほどまでに怖ろしく、また、やつらとのコミュニケーションはそれほどまでに断絶しているのです。

 さて、ここで再びテニスミュージカルに話を戻しましょう。ダイナミックに、歌い、踊る、役者たち。先述の通り、彼らの動きには、ある種の「迫力」があります。そして、同時に彼らは「畏れ」もまとっています。この「畏れ」は原作よりもたらされた「青春学園に対する畏怖」であり、彼ら人外魔境に対する恐怖心です。ミュージカルにおいて、役者たちは(たとえ「青春学園」を演じているだけであっても、彼らはやはり)青春学園という「恐怖の相」をまとっているわけです。

 とはいえ、越前一人や手塚一人が踊るだけならさほどのことはありません。ですが、青春学園のフルメンバーが一堂に集い、一斉に踊りだしたらどうでしょうか? これは怖ろしい――。怖ろしいのです――! 青春学園フルメンバーによる踊りは、「青春学園」という「恐怖」をまとい、踊りのもたらす「ダイナミックな迫力」と合わさり、圧倒的畏怖として観客を魅了します。青春学園とは一種の怪物です。その怪物がダンスによって得られる迫力を背景に、畏怖すべき存在感を会場中に蔓延らせるのです。その光景は、まさにクトゥルフ神話に言う邪神アザトースの如し。青春学園の圧倒的暴力と論理的非共有が踊りによる動きを得て、活発にその存在を示す姿は、かの邪神の描写に共通するところがあるのです。

 圧倒的恐怖で蠢く「何か」――。テニスミュージカルにおける青春学園とはまさにこのようなものであり、これこそがDVDでは得られぬ生のテニスミュージカルなのです。これは人によっては、何を言っているのか分からぬ世迷いごとのように感じられるかもしれませんが、一瞬でも青春学園に対し、「こいつらは人間ではない」「こいつらとは会話が通じそうにない」と、恐怖を感じた人であれば、少しは感覚が伝わるのではないかと思います。やはり、青春学園は怖ろしい――!

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ミュージカル「テニスの王子様」The Progressive Match 比嘉 feat.立海演劇・ミュージカル

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