ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫) 前嶋 重機 メディアワークス 2000-01 売り上げランキング : 46067 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
冒頭――。
機会の猛禽<迦楼羅>の上に蓮華座を固定し、その上で結跏趺坐を組み、偵察任務を行う一人の僧兵、ヤコ。遭遇したグレムリンは彼女の合唱により、南無阿弥陀仏を唱えながら蒸発。眼下に展開するは機構折伏隊<ガンボーズ>。その中央に座するは重機動如来<毘盧舎那>。姿を現した百手巨人に対し、毘盧舎那仏のドロップキックが炸裂。五百羅漢の合唱により百手巨人は解脱へ向かい結跏趺坐を組むも、煩悩の侵入により業が急速に蓄積。百手巨人は六道を光速輪廻した後、奈落堕ちする。煽りを受けて墜落する<迦楼羅>から蓮華座ごと射出されたヤコは五体投地式接地法により、着地の衝撃を功徳に変換し身を護るが――。
――と、わずか25ページのうちに、これでもかと仏教ネタを注ぎ込んで始る本作。この後もイスラームをネタにしたり、禅をネタにしたりと、作者の古橋先生は持てる知識を巧く、面白く利用し、サイバーパンク(?)に当てはめていきます。
中でも特に秀逸と思われたのが、練兵中の僧兵が公案を行うくだりです。出された公案に「答えても殴られる」「答えなくても殴られる」という禅の不条理をまず提出し、それに対し「問うた者を殴り返す」という一つの答えを示します。これが本来の禅においてどのような意味を持つのかは分かりませんが、そこで、古橋先生はこう書くのです。僧の戦う相手――魔物の行動は人外の論理である。だから、魔物を殴るのは僧兵の基本姿勢である、と。禅のスタイルをこのようにサイバーパンクに変換していくのです。これは「仏教」というものに何らかの悪魔祓いエネルギーがあると設定し、それをエネルギー波という形で示した孔雀王に対し、また別のベクトルで「仏教」と「悪魔祓い」の関係を築いたと言えるでしょう。人外の論理を持つ相手に対し、なるほど、この理論なら禅で戦えます。
そして、この作品のキーとなる人物、悪霊スレイマン。彼は作中にて「トリックスター」であると明言されていますが、そのトリックスターぶりが半端ない。文脈を無視し、人智人倫を超越し、コミュニケーションを受け付けず、論理とは無縁に行動します。彼の無意味な行動により、ほとんどのキーマンが殺され、一方で多くの人々が救われます。この作品のラストをどう解釈すべきかは悩みますが、やはりスレイマンはトリックスターであった、と、そういうことなのでしょうか。
最終的な読後感はイマイチ。端々のネタは輝いていたし、伏線も綺麗に回収されたけど、全体としてのまとまりが若干弱かったかな、と。ラストは古橋先生としてはおそらく読者を突き放そうとしているんでしょうが、うまく突き放してもらえなかった感じがあってそこも残念です。十分に面白い作品でしたが、傑作というにはあと一歩……。単に前二作を読んでないのがネックかもしれませんが。
しかし、これは非常にレビューの書き辛い作品でした。難しい。
ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫) | |
前嶋 重機 おすすめ平均 何度読んでも感心します。 この終わり方って? 完結? 神様いるの? Amazonで詳しく見る by G-Tools |