《聖なるものと空間》
・「俗なる人間にとって、空間は均質であり、中性である。～～（略）～～幾何学空間はどんな方向にも分割区分することができる。～～（略）～～したがってまた、いかなる方向付けも生じない」
・「<われらの世界>に対する襲撃は、神々の作業たるコスモスに反対して起き上がり、これを無に投げ返そうとする神話の龍の復讐を意味する。仇敵は全てカオスの勢力に属する。都市の破壊はすべてカオスへの転落であり、侵入者に対する勝利はすべて龍（すなわちカオス）に対する神の模範的勝利の再現である」
空間とは俗なる人間にとって均質なものです。空間はどこまでも等質であり、あっちの空間とこっちの空間に違いはありません。しかし、宗教的人間にとっては、空間は「聖所」を中心に広がっており、「方向性」が生じています。聖所は、たとえば神の声を聞いた場所だったりするし、そういう啓示が現れないときには獣の力を借りたりします。たとえば獣を解き放って、それが斃れた場所を聖所としたりします。宗教的人間にとって「中心」から広がる世界が「コスモス」であり、その外側の世界が「カオス」です（「コスモス」は「聖なる力により調和の取れた世界（＝宇宙）」くらいの意味）。
《聖なるものと時間》
・「聖なる時間は本質的に逆転可能である。それは本来、再現された神話の原時間である」
・「宇宙創造の再現として新年は、時間を初めから繰り返すこと、したがって太初の時間、純粋な時間を創造の刹那そのままに回復することを意味する」
・「海の怪物ティアーマットが復活し、再び脅威を与える。まる一年間存在した世界は実際に消滅した。ティアーマットが再び存在し、宇宙は消滅してしまっている。そしてマルドゥクはそれを今一度創造するために、ティアーマットを改めて征服しなければならなかった」
宗教的人間にとって空間が均質ではなかったように、時間もまた（非宗教的人間が感じるような）一定の方向に流れるものではありません。時間は一定の周期により回帰しており、新年の祭りは宇宙創造の時への回帰を意味しています。要するに、12月くらいになると大分カオスになってくるので、そこでまた1月に（新年の行事で宇宙創造の時を象徴的に行って）リセットし、宇宙をコスモスに戻す訳です。ちなみに呪術的な病治しは、これと同じで、病人の体を「創造の刹那」に立ち返らせることにより、彼の体をリセットしているのです。
《世界の中にあるいろんな聖なるもの》
・「聖なる石が尊敬される所以は、それが神聖であるからであって、石なるが故ではないことはすでに述べた。石の真の本質を啓示するのは、石の存在様式の中に現れた神聖性である」
・「蒼穹はただ仰いでこれを眺めるだけですでに宗教的体験を呼び起こす。～～（略）～～天を観て彼は神性の不可測を悟り、同時に宇宙における自分の地位を見出す。というのも、天はその存在様式によってすでに超越、威力、永遠性を開示しているのである」
・「宗教的人間にとって自然は決して単に<自然的な>ものではない。～～（略）～～人類にとって自然はいまなお<魔力>であり、<秘密>であり、<尊厳>であって、そこから古代の宗教的価値の痕跡が読み取れる。たとえいかほど無宗教であろうと、自然の<魔力>を感じない近代人は一人もいない」
宗教的人間は自然の中に神聖性を発見します。ただし、自然を尊敬するのではなく、自然の中に現れた神聖性を尊敬します。天は尊敬されますが、それは天の存在様式に神聖性が存在するためです。同様に水、大地、樹に関しても、同じような神聖性があることが書かれています。
《聖と俗》
・「現代人の住居がその宇宙論的価値を喪失したと全く同様に、彼の肉体もまたあらゆる宗教的ないし精神的意味を奪われてしまった。これを要するに、現代の非宗教的な人間にとって宇宙は不透明な、鈍い、物言わぬものとなってしまった、と言うことができよう」
・「宗教的人間は常に絶対的実在、すなわちわれわれの世界を超越しながら、しかもこの世界の中に啓示され、それによって世界を浄め、かつ真実のものとするところの聖なるものの存在を信ずる。彼は生命が聖なるものに起源をもつことを信じ、人間存在がそのあらゆる可能性を展開するのは、それが宗教的存在であり、したがって実在性に関与する、その程度に応ずることを信じる」
・「非宗教的人間は超越性を否定し、<実在>の相対性を認める。それどころか彼は生存の意味を疑うことすらありうる」
非宗教的人間にとって、宇宙には「特に意味がない」ということ。しかし……、
・「俗なる人間は人間存在非聖化の産物である。これはしかし、非宗教的人間があらゆる宗教性、あらゆる超人間的意味を<脱却する>よう努めることにより、その先人への対立から形成されたことを意味する」
宗教的人間である先人を「否定」したことにより、非宗教的人間になるのだとしたら、「否定する」という形で、宗教的人間の態度に関わらなければならない、つまり、「否定しても、やはり、つきまとわれている」。信じていないことは信じていることの裏返しで、宗教から逃れられてはいないということ。（これは理屈は分かるが、どうもいまいち納得し辛い感じ）
・「しかも、彼はかの振る舞いが依然として、なんらかの形で彼の存在の深奥に蘇る力をもっているのを感ずる」
一方、こちらは納得できます。宗教的態度を迷信として退けたとしても、そういった理性的判断は、ふとした弾みに脆くも崩れるということでしょう。宗教的態度の方が原初的で、非聖化は近代の「発明」なのだから。
・「みずから非宗教的と感じ、かつ自称する現代人がなお、偽装した神話や堕落した祭式をふんだんに用いている。～～（略）～～新年の行事とか新築祝いは、世俗化してはいるものの、なおやはり更新祭儀の構造をもっている」
エリアーデによれば、読書や演劇、映画なども「偽装した神話や堕落した祭式」らしいです。他の本になりますが、星占いやUFOとかも確かそうだと言ってたはず。
・「純粋な理性人というものは一つの抽象であって、現実にはどこにも存在しない」
だそうです。
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まとめるならば、時間と空間、そして、自分を取り巻く自然。それらに人々は「聖なるもの」を見ていたわけで、それは宇宙に調和をもたらすためです（コスモス願望）。非聖化された近代人は時間や空間、自然などに「聖なるもの」を認めないために、その宇宙はカオスであり、「特に意味がないもの」となっています。ニーチェが言うところの「神は死んだ」状態。
とりあえず上記のようにまとめてみましたが、エリアーデの言わんとするところが良く掴めないので、また、何か分かったら追記します。
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以下、追記
・「聖なるものは遠い人類の神話時代に発し、古代社会および原始社会における人類の生存全般にわたって顕現した宗教的価値であり、やがて歴史時代の進展と共に衰退し、近代の工業社会に至ってほとんどその影を没しようとしているものである。本書は～～（略）～～現代社会に代表される俗なる世界との対比により、いわゆる宗教的人間のあり方をできるだけ明らかにしようとしたもの」
・「空間には中心があり、時間は可逆的である。古代心情のいわゆる「宗教的」時空体得の根本的特徴は、人間が常に時空を創造する点にある。～～（略）～～永遠の回帰は歓喜に充ちたものであり、悲観厭世に連なるものではない」
上のまとめで大体イイのかも。後者でエリアーデが「悲観厭世に連なるものではない」と言っているように、エリアーデの観点では、宗教的人間が時間を回帰させることは「進歩がない」という意味ではないようです。つまり、エリアーデは宗教的人間に価値を認めているということでしょう。
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