【5/27】レビュー「日本人はなぜ無宗教なのか」


 読んでみました。簡単に内容をまとめると、日本人のいう「無宗教」は「創唱宗教(仏教とかキリスト教とか創始者が特定できるもの)の信者ではない」という意味であって、信仰心が全くない訳ではない。「自然宗教(創始者が分からない宗教)の信者である」という感じ。後は「宗教」という言葉の成立にそもそも問題があるとか、そんなの。以下、メモったところを感想付きで箇条書き(⇒の後が僕の感想)。

・「憂き世」から「浮き世」へ

 昔の人は生活が厳しかったから、この世は「憂き世」(仏教的な苦の世界)であった。しかし、生活に余裕が出てくるにつれ、「この世は確かに儚いが、まあ、それはそれとして楽しめばイイんじゃね?」と考えるようになり、「憂き世」は儚いけれどウキウキとした「浮き世」となる。「浮き世」の感覚は、いわば「曖昧な人生」であり、人生に根本的な意味を与える創唱宗教は受け入れがたくなる。だが、かといって、「浮き世」感覚の人が無宗教なのかといえばそうでもなく、根本的な不安を残している(「この世は確かに儚いが~)」という点では宗教的といえる。

⇒現代の科学も「根本的な不安」に対するアンサーとはならず、現代人も根本的不安を抱えたまま生きているといえないか。それはすなわち宗教的(厳密な無宗教ではない)ということではないだろうか。敷衍して言うなれば、そういった根源的不安を抱えぬ人間はまずそうそういないわけで、「宗教的な種子」ともいうべきものは各人の心の中に当然存在していると言えるだろう。


・死とケガレ

 かつての日本では先祖には二種類(「出自の先祖」「歴代の先祖」)があり(といっても勿論現代の研究者の分類ね)、「出自の先祖」というのは氏神(天皇家ならアマテラス)、「歴代の先祖」というのは現実の先祖。歴代の先祖は実際に死んでいるので「死のケガレ」を免れえない。この「死のケガレ」を克服して「出自の先祖」に連なる存在(カミ)になるために仏教は伝来した。当時の仏教は(本来の性質である)高度な哲学体系を持つ宗教というよりも、最新の呪術体系として受容された。

⇒この本では仏教伝来を「死のケガレ」に対処するためとしている。読んでないので良く分からないが、『逆説の日本史』で採用している怨霊史観に似たものか? 御霊信仰は平安期に現れたものなので、仏教が怨霊対策に伝来したというのなら受け付けられないが、しかし、死のケガレに対する対処法としての仏教輸入ならば納得できるかもしれない。ただ、それなら神道の祝詞で聞く、「はらいたまえ、きよめたまえ」がなんなのか分からない。「神道にもケガレ除去あるんじゃね?」って思わないでもない。


・朱子学による禅宗批判

 朱子学は当時の最新宗教の禅宗の一部として伝わったが、藤原惺窩は禅宗から朱子学を独立させようとした。儒教(≒朱子学)は世俗の政治と道徳に関心と方策を示すが、その朱子学から見れば、禅宗の出家主義は現実の生活を無視する反世俗主義であると見えた。つまり、「穀潰し」である、と。なお、禅宗の出家は修行後に世俗に戻り、現実社会のために慈悲業を実践するという積極的な目的を持っているが(菩薩道)、それは無視された。また、その一方で「葬式仏教」は批判対象とはしなかった。

⇒これは現代の状況と似たところもあり、非常に考えさせられる。つまり、現代人の感覚からすれば、出家というのは非生産的かつ世俗から離れた異常な行為であるが(宗教なんだから当たり前だけど)、当時にもやはり同じ感覚はあったようだ。そして、「出家」には難色を示しながらも、「葬式仏教」には無批判であった点も現代と似ていると言えないだろうか。


・「宗教」の言葉の意味

「宗教」という言葉が定着した明治7年頃、この言葉は「創唱宗教」を意味しており、「自然宗教」を含んでいなかった。そのため、現代において「創唱宗教を信仰しない」という意味で「無宗教」を標榜する人たちがいることも納得できる。


・宗教は「個人の私事」

 同じく明治の頃。キリスト教解禁の圧力(信仰の自由)と天皇崇拝(国家神道)の両立の問題から、「キリスト教は個人の心の中に留めておく分にはOKだけど、布教とかの社会的行動はダメ」という妥協案的なアイデアが生まれる(「宗教は個人の私事」という「常識」が生まれる)。これが現代の宗教観の原型になっていると言える。

⇒たとえばエホバの証人の訪問布教活動を嫌う人は多いが、あれも「対応が面倒くさい」というのはもちろんあるだろうが、「信仰を布教する」という活動自体に対しての忌避感があるのではなかろうか。


・「宗教は社会の秩序を乱すものであってはならない」

「オウム事件の際、多くの人々が宗教は社会の秩序を乱すものであってはならないと力説した」(本書より)、こうした考え方の背景には、明治時代の政治家による宗教の政治的解釈が存在している。

⇒別に「宗教は社会の秩序を乱していい」という訳ではなくて、宗教だろうがなんだろうが社会の秩序は当然乱してもらっては困るのだけれど、「『宗教は』社会の秩序を乱すもので『あってはならない』」というのはやはりおかしい。これは言い換えれば、「宗教は社会の安寧秩序に寄与すべし」というアイデアであり、それは宗教の本質とは関係のない宗教観である。「宗教は社会秩序に貢献しなければならない」というアイデアは、現代でもかなり一般的に広まっていると個人的には思われる。(たとえば阿弥陀仏への信心を得ることで)結果的に人格的に丸くなって社会秩序に貢献することもあるかもしれないが、それはあくまで「結果的に」であり、別にそれを目指すことが宗教ではない。


・キリスト教による宗教観への影響

 欧米文化偏重の影響により、キリスト教のような明確な教義と教会組織により構成されるものだけが「宗教」と考えられ、生活に密着し、習俗、風俗となっている「自然宗教」的な信仰心は、「程度の低い宗教」「宗教とは見なされない」ものとなっていった。


・無宗教=安全

 明治政府が「天皇崇拝(=国家神道)は宗教ではない」と設定し、また、宗教を「個人の私事」とし、社会的活動(布教など)は国家により制限を受けるのが当然とする「常識」を打ち出したために、無宗教を標榜することは「身の安全を保証する」ことと同義となった。

⇒現代でも、「信仰者=危険」/「無宗教=安全」といった感覚がないとは言えないだろう。その感覚がこういった歴史的過程によって生み出されたものかもしれないという説は面白い。


・無宗教と「平凡」志向

 学校ではイジメられないためにできるだけ目立たないように気を配ったり、人の動きを見てから他人に合わせて行動する生徒が後を絶たない。「人並み」を重視する傾向は今も生き続けており、日本の文化が育んできた平凡志向と「宗教嫌い(創唱宗教嫌い)」は密接なかかわりがあるのではないか。

⇒つまり、現代においては「創唱宗教の信者である」「信仰を持つ」ことは一つの個性であり、平凡志向により、それらへ向かう気持ちが阻害されているのではないか、というアイデア。これは「科学」「宗教」の二項対立のみに宗教アレルギーを見出す向き(「宗教なんて非科学的じゃん?」)に対し、一つの皮肉的な要因として提起できるのではないか? つまり、みんな科学がどうこうと考えて論理的帰結として宗教を否定してるんじゃなくて右に倣えなんじゃねえか、と。


・ムラと宗教

 日本のムラにおいては、悪はもちろん、善であっても程度の大きいものはムラに波風を立てるものとして追放する向きがあったようである。そのような風土では宗教もムラを割らないものとしてしか認められなくなる(日本人の宗教はムラを維持していくためのものとなる)。しかし、創唱宗教というものは(特に仏教などは)どこかで世俗と断ち切るものであるから、そのようなものが受け入れられないのも分からぬことでもない。現代の私たちもその延長線上に生きている。

日本人はなぜ無宗教なのか (ちくま新書)
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