【5/9】なぜ坊主は幽霊と戦えるのか?(1)


 この疑問の出発点は非常にシンプルでした。つまり、お経が思ったよりも哲学的な内容であり、そこに霊的な何かを感じなかったことです。例えば、お経といえばすぐに思いつくのが『般若心経』ですが、ここで説かれているのは「空」の思想。つまり、認識論に関する哲学的なお話です。なんで幽霊が哲学を聞かされると消えてなくなるのか? そもそも、いつも哲学をやってる仏教の坊さんがなんで幽霊と戦えるのか? 幽霊と戦う坊主のイメージはどこから生まれてきたのか、その辺りを適当にまとめてみます。

 
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ポイント1:そもそも仏教は幽霊と戦わない

 まず僕の理解している範囲で、「空」だとか「悟り」だとかを乱暴に説明。

 仏教の言ってるのは、この世の物事は「りんご」だとか「みかん」だとか名前が付いて細分化されてるけど、そういうラベリングによる区分を取っ払うと世界はみんな一緒くただということ。その一緒くたな、まとまってるものが「空」です。「りんご」だとか「みかん」だとかは、ただ名前が付いて細分化されてるだけなので、そんなものにこだわるのはアホらしい(これにこだわるのが「妄念」)。なので、「名前によって区分されているそれぞれ」を認識するのではなく(←僕たちの普通の認識)、「空」を実感した上で現実的事物に対処する(←悟りの領域、悟ってないので実感できない)ことが説かれています(「りんごでもみかんでもどうでもいい」という意味ではたぶんない)。で、坊さんは、この「悟り」と呼ばれる状態、つまり、意識変容状態を引き起こすために座禅をしたり禅問答をしたりする訳です。これらの修行は意識変容のためのテクなのです。

 と、ここまでを見ると、そこに霊的なものが介在していないことに気付きます。坊さんは意識変容するために座禅だとか禅問答だとかをやってる訳で、霊がどうこうと言われても、「ハァ?」という感じではないでしょうか。ぜんぜんベクトルが違うのです。余談ですが、魔術系秘密結社として有名な「黄金の夜明け団」も、この悟りのような意識変容状態を引き起こすテクを色々実践してたサークルです。我流の禅僧みたいなもんだと思います。


ポイント2:仏教には幽霊はいない

「死んだらどうなるのか?」に答えるのが宗教の役目という面もありますから、仏教でも「死んだらどうなるのか?」は説かれています。輪廻転生です。徳を積めば人間に生まれ変わったり天人に生まれ変わったりできるけど、悪いことをしてると餓鬼道や地獄道に生まれるというやつです。しかし、これは「地獄に生まれる」のであって、死んだら「地獄に行く」訳ではありません。「死者の世界」はないのです(日本の仏教では「悪い人は死んだら地獄で一定時間過ごして、そこから輪廻する」みたいな話になってる??)。なので、本来的には死んだ人の霊魂がそこらへんをフラフラしてる訳がないのです。仏教には幽霊はいません。


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 つまり、仏教は幽霊と関わってないし、教義的にも幽霊なんていないのです。では、そのことを前提に「幽霊と戦う坊主」のイメージがどこから出てきたのかを考えます。考えます、といっても僕には知識がないので人から聞いた話をまとめるよ。

 なお、非常に幸運なことに真言系の住職さん(愛忍者さん)からメールを頂きまして(前世で功徳を積んでてよかった)、引用の許可も得ていますので、次回、引用します。


識者の意見1:幽霊がいないということを説く

 仏教の論理では幽霊なんていません。般若心経の哲学を噛み締めてもやっぱりいる訳がありません。幽霊がいると思うのは(仏教的には)どう考えても気の迷いです。なので、もし坊さんが「幽霊を見た!」と思ったら、般若心経を読み返してその哲学を復習すれば、「ああ、やっぱり気の迷いだな。いるわけねえわ」となって、(気の迷いであるところの)幽霊は消えてなくなるはずです。

 また、もしも信徒が「幽霊が出た!」と寺に駆け込んできた場合。やはり、坊さんは、「いるわけないだろ、落ち着けよ」と言いたいところでしょう。なので般若心経を読んで、「ほら、この哲学書を読んでも明らかにいないだろ」と説きます。経を読んで分からなければ、その哲学を分かりやすく解説してもいいんじゃないでしょうか。信徒が、「はぁ、なるほど。確かにいませんね」となれば幽霊はいなくなるでしょう。つまり、何か霊的なパワーで幽霊を追い払うのではなく、「いないでしょ、仏教の哲学に照らしてもいないでしょ」と理を説く感じです(この辺り、精神分析に非常に似ている気がします)。現実問題として、それで幽霊問題が解決するならば、「坊主は幽霊と戦える」というイメージが醸成されるのもありえる話です。


識者の意見2:幽霊には認識論的な哲学的アプローチが有効である

 ギャグみたいな視点ですが本気ですよ。ここでいう「幽霊」は、いわゆるヒュードロドロの「幽霊」とはニュアンスが異なり、「妖怪」的なものだそうです。先述した「空」の概念(区分されてない世界そのもの)ですが、これが「区分」された世界に至る前に、一段階、「おおまかに区分された世界」みたいなのを通るのだそうです。もちろん、これは人の意識の中の話、無意識領域の話です。これがユングが言うところの「元型(アーキタイプ)」であり、禅で言うところの「魔境」であり、お釈迦さまが修行中(悟りに至る前)に出会ったマーラー(魔王)であり、神話などに出てくる怪物です。それで、(体感したことがないから分からんけど)これは結構なリアリティで迫ってくるらしいです。でも、仏教はこんな中途半端なリアリティに囚われてては悟れないので、次のレベルに進まなきゃいけないのです。で、この迫ってくるのを「幽霊」とするならば、坊さんはこれに囚われてては悟れないので般若心経で認識論の勉強をして、このリアリティを否定しなければならない、と。これを幽霊退治といえば幽霊退治になるのかなあ、みたいな話。

 この話は、たとえばマーラーが女神転生に出てくるチンコの悪魔みたいな、ああいう形而上的存在として釈迦の目の前にドンと現れたと考えると、そこからイメージが広がっていって、「よく分からん幽霊的なものが現れたら坊さんに頼ればいい」となったのは考えられます。余談ですが、おそらく悪魔召喚術というやつは、この意味での幽霊(悪魔)を意識内に呼び起こす意識変容テクのことと僕は認識しています。


識者の意見3:幽霊退治はサービスである

 仏教の僧侶は日頃哲学とか意識変容の訓練とかしています。しかし、こんなことばかりやってたら、みんなが理解してくれないのでメシが食えません。もっと言うならば「社会に必要な感じがしない」のだと思います。死後の世界がない仏教がなぜ葬式をやってるかといえば、あれも一種の分かりやすいサービスと考えられます。なので、みんなが「坊さんなら幽霊を退治できるんじゃね?」と思えば、坊さんはサービスで幽霊退治をしてくれるのかもしれません。幽霊は「気のせい」なので、「退治できるかもしれない」と本気で思えば実際に退治できるかもしれません。

 では、なぜ、みんなが「坊さんは幽霊を退治できる」と考えたかについてですが、ここで明日に続きます。

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