山田風太郎「忍法関ヶ原」収録の短編です。ネタバレあり。
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悪家老の企みにより命を狙われる家老の娘さん。彼女の命を狙う悪家老と三人の刺客は、不思議な忍術（ラリホー）を使う三人の護衛忍者を倒し、娘さんを暗殺することができるのか……！
というのが大枠のストーリー。娘さんを守る三人の忍者ですが、各々がラリホー忍術を身につけています。
・睡竿……女の喘ぎ声そっくりの羽音を出す虫を使う。その羽音を聞くと眠くなる。
・眠竿……足でリズムを取ると、そのかすかな衝撃が相手に届いて、眠くなる。
・夢竿……銀色に光る義眼を持つ。この目を見ると眠くなる。
ドラクエじゃないんですから、戦闘中に寝ちゃえばもちろん致命的です。どれだけ剣が強くても敵いっこありません。特に夢竿がひどいですね。目を見ただけで周りのやつらは全員寝ちゃいます。どう考えても最強能力です。そのため、三人の刺客たちはラリホー忍法対策を考えることになります。そして、三人が三様の攻略法を閃くのですが……。
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まず一人目は、「どうしようかなあ」と考えながら吉原で遊女を抱いていると、遊女が途中から寝ながらセックスをしていることに気付きました。そして、女と寝ながらセックスをしているといつもより気持ちよいことに気付き、「そうか！ 半分寝ながら戦えばいいんだ！」と思いつきます。彼はそれを「半睡浮遊剣」と名付け、雇い主である悪家老に自身満々に報告します。
一人目「閃きもうした。半分寝ながら戦えばいいのでござる」
悪家老「え……、半分寝ながら斬るって……、そんなことできんの？？」
一人目「それ以外にきゃつらを討つ方法はありませぬ」
悪家老「てか、そもそも、そんな自在に半分寝れるの？？」
一人目「ウン、実はそっちのが問題だよね(´・ω・`)」
ともかく、彼はその方向でちょっと修行してみることにします。
一人目が何やら攻略法を思いついたと聞き、他二人は焦ります。そして、二人目も何かを得ようと吉原へ行き、あの日、一人目が抱いたのと同じ女を買います。この遊女はよく寝ることで有名な子だったのです。
二人目の人はこのセックスから何かを掴もうと何度もセックスを重ねますが、齢四十を過ぎていることもあり、四回目辺りからすっかり疲れてしまいます。一方、遊女の方はセックスしながらもグースカと眠っていたのですが、彼は寝ている遊女の性器のみが、自分のピストン運動に合わせてぴくぴく痙攣していることに気付きます。これを見て、彼は「そうか、この女のように眠りながらも一部分だけ起きてればいいんだ。いや、これをさらに進めて考えよう。眠気に襲われた場合、体の一部分のみに眠気を集めれば、体全体としては起きておくことができるぞ（局部麻酔のように）」という訳の分からない結論に達します。彼はこれを「仮睡自在剣」と名付けました。
残された三人目は困惑します。同僚の二人は、「半分寝ながら戦えばいい」「体の一部分だけ眠らせて戦えばいい」などと訳の分からないことを言っており、そんなことが自分にできるとは思えません。とりあえず、自分も何かを悟るべく同じ遊女の下へ通い、頭がくらくらするまでセックスしてみましたが、なかなか悟りに達することができません。そのうち、彼は寝ぼけて女と間違えて座布団とセックスしてしまいます。しかし、自分が寝ぼけていたことに気付いた彼は、「これだ！」と悟ります。「夢遊病状態で戦えばいいんだ！ 名付けて『夢界生動剣』」。
こうして、「半睡浮遊剣」「仮睡自在剣」「夢界生動剣」を修めた三人の刺客は、見事、睡竿、眠竿、夢竿の三人の忍びを討ち果たすのです。残すは家老の娘さん、ただ一人。剣の実力差は圧倒的。娘さん、危うし……！
しかし、三人は娘さん一人に全員迎撃されてしまうのです。
「ほんとうに、どうしたことでございましょう。三人は、半分寝ているか、からだのどこかが麻痺しているか、ただ寝ぼけて動いてるかのようで、要するにみんなふつうではありませんでした。わたしでなくても、子供でさえ討てたに違いありません」
瞳を見ただけで相手の戦闘力を奪う夢竿、そんな夢竿の能力すらアイデアと修行により破った三人の刺客。ですが、彼らの超絶能力バトルも、終わってしまえば一周回って普通の人以下になっていたのです。刺客三人が新しい攻略法を報告しにくるたびに、
「え？ それ、ホントに大丈夫なの？？(´・ω・`)」
と、心配していた悪家老が大正解でした。
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このお話は、最強レベルの能力である「ラリホー忍術」を最初に提示し、しかし、最強能力であってもタネさえ割れていれば攻略可能という、能力バトルの基本にまず触れています。しかし、能力バトルにおいては、「最強破りは最強ではない」のです。ここら辺に能力バトルの皮肉というか、シニカルなニュアンスが感じられるのが良かったですね。
でも、一番面白いのは、刺客三人がそれぞれの剣術に目覚めるシーン。必死になってセックスした挙句、「こ、これだー！ ついに閃いたぞ！」と訳の分からないことを言い出して、悪家老に自信満々に報告。それを聞いた悪家老が毎回困ってる展開がすごく面白かったです。
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