「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書 61) 岡田 斗司夫 筑摩書房 2007-06 売り上げランキング : 982 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
昔から考えていたネタだけど、気付いたら岡田先生に先を越されてて悔しい一冊。この書では、悪の秘密結社が「世界征服」という難事業を達成した後に、燃え尽きてしまわないよう征服後の目的設定をするところから説き始め、支配者の分類とそれぞれの注意点を記しています。たとえば独裁者タイプの支配者(ヒトラーや夜神月など)が何よりも気を付けねばならないのは過労死であるし、金正日のようなバカ殿様タイプもそれなりに結構働かねばならないので、仕事のストレスから思い切りワガママに振舞って部下に裏切られないよう注意しなければならない、といった風にです。
個人的に、この書で一番素晴らしいと思ったのは独裁者タイプの例として繰り返しヨミさま(バビル2世)が使われていることで、ことあるごとにヨミさまの働きっぷり、真面目っぷり、疲れっぷりが強調されています。
本当にまんがの中で「大変だ、ヨミ様を起こせ!」というセリフが何回も出てきて、ヨミ様は全然寝られないのです。
(中略)
それでも基地を攻撃されると「ヨミ様、大丈夫ですか」と心配する部下をふりきり「だがここで負けては、この基地が……」と超能力を無理矢理振り絞ってがんばります。
ヨミ様は、このマンガの中で三回も過労死します。
などと、僕たちの大好きなヨミさまの苦労っぷりが描かれ、さらにはご丁寧に「ヨミさま人生すごろく」という企画に2ページが割かれて、「ヨミさま頑張る」→「ヨミさま疲れる」→「ヨミさま部下に気遣われる」→「ヨミさま休む」→「(でもバビル2世が来たら部下では手に負えないので)ヨミさま起こされる」→「ヨミさま、また疲れる」という流れが強調されています。本当にヨミさまは素敵ですね!
後半では具体的な世界征服手順が紹介され、「人材確保」の項では銀行強盗をするにしても1億や2億では人件費に見合わないことが書かれ、また、「秘密基地」では都内のアパートを借りるところからスタートし、「資金確保」では、銀行強盗や贋金作りはインフレが発生するためオススメできず、確実に資金調達するためにはヤクザのようにまともな企業を運営するのが一番だけど、普通にまっとうなビジネスで儲かってきた時には世界征服という野望を捨てない心構え、つまり、夢を諦めない気持ちが大切だと説きます。
で、このビジネスの話が顕著なんですが、最後は「なんのために世界征服するのか」「なんのうまみがあるのか」という話になっていき、さらには「悪」の概念の話に至る訳です。結論としては、現代で本気で「悪の組織」が「世界征服」をやろうとしたらボランティアによるエコロジー組織になるのではないか、という話でまとまってます。
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この書で、岡田先生は「世界征服してもやることなくね?」「支配しなくてもカネがあればできることじゃね?」という点を強調してるんですが、あえて難癖をつけるなら、岡田先生は異常性欲者が世界制服をする可能性を見逃しています。例えば、中学生1クラスを孤島に閉じ込めてガチの殺し合いをさせたい場合、お金があってもこれはできません。ソドム百二十日みたいな美少年美少女監禁拷問漬けとかも不可能です。こういうことをやりたい人には、いわゆる「世界征服」もやる価値があるのかもしれませんね。逆に言えば、そういう人以外は特にやる価値がないので、ああ、世界征服を企むやつはやっぱりみんな悪いやつなんだなと、こう考えて良い訳です。なるほどねー。
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