ジャンプ編集長「新人にヒットでねえな」「この先どうなっちゃうんだろうな」
編集長さんは、至極もっともなことを言ってると思うのですが、2ちゃんねらーの反応を見るに、やはり10週打ち切りシステムはみんな嫌いみたいですね。しかし、冷静に考えてみれば分かることですが、このシステムも特別に酷いものではありません。何事もプラスもあればマイナスもあるものです。
さて、10週打ち切りシステムの話の前に。まず大前提として理解すべきは、編集者は商売人であって、クリエイターではないということです。彼らの仕事は売れる作品を作って儲けることであって、自分たちが素晴らしいと思う作品を作ることではありません(※1)。特にジャンプのようなデカい雑誌では、その傾向が強くなるでしょう。
そして、インタビューでも書かれていますが、何がヒットするかはプロの編集者でも分からないのです。過去に大ヒット作品を送り出しているベテランの編集者も、「狙ってもヒットしないが、ヒットするときはする」と言ってます。大人向けの作品ですら難しいのに、子供向けの作品となるともう実験してみるしか手がないのでしょう。実際、ワンピースも「こんなものが売れるとは思わないが、一応やってみよう」ということでスタートした作品らしいです。編集部にもそのくらい分からないのです。
で、そこで10週打ち切りシステムですが、「新人が連載中に成長しない」「後から面白くなるタイプの漫画が描けない」といったマイナス面は確かにあるものの、その代わりに「回転率が上がる」というプラス面があります。要するに「数撃ちゃ当たる」方式なのです。先にも述べた通り、本やら漫画やらは何が売れるのかプロでも良く分かってません。ジャンプに限らず、出版物は基本的に「数撃ちゃ当たる」です。そして、回転率が上がるということは、「新人漫画家の使い捨て」でもありますが、これは言い換えれば、「多くの新人にチャンスを与えている」形式でもあります。
ジャンプはかなり厳しい雑誌とは言えるでしょう。新人を育てるというよりは、多くの新人にチャンスを与えて、アンケートで人気が取れる上澄みの新人だけを使い続けるシステムです。これは新人の絶対数が大きいジャンプだからこそできるシステムですね。漫画賞の充実や、増刊を作るなども、育成というよりは、より多くの新人を獲得するための努力ですから。ジャンプというブランドの力で多くの新人を引き寄せ、その中からアンケが取れて、カネになる新人だけを採用するわけです。酷い話のようですが、編集部は商売人なので利益追求は当然ですし、新人としても「読者の人気」という絶対的な数字で勝負するのだから、ある程度公平性があります。
ところで、「少しは編集部自身が評価して長い目で見よう、という枠があってもいい」という意見もあり、これは僕もそう思うのですが、これも、実際問題、話はそう簡単ではありません。「編集部自身が評価する」といいますが、先にも述べた通り、編集部は何が売れるか分からないのです。そして、あれだけの発行部数があるジャンプで、19Pxnクールを「売れるかどうか分からない作品」に費やすことのリスクは小さなものではないでしょう。では、リスクを最小限に抑えながら、「長い目で見る」ような作品がどういうものかといえば、それは「冒険をしない作品」になります。商売人の理屈で考えた「売れそうな話」です。そんな作品が、果たしてすごく面白いものになるでしょうか。良くて中堅止まりではないかと思います。「編集部が評価する枠」があったとしても、ユンボルはおそらくその枠には入らないのです。(※2)
そうするよりは、むしろ評価は全てアンケートに託し、新人に同じ条件で、ある程度自由に漫画を描かせて競争させて、数撃ちゃ当たるで大ヒットが出るのを狙うのも悪い戦術とはいえません。ただ、「ある程度自由に」というのは僕の想像であって、本当に「ある程度自由に」描かせているのかどうかは分かりませんが。もし、「ある程度自由に」描かせていて、似たような作品しか出てこないというなら、それは確かに「最近の新人がパッとしない」ということになるのでしょう。
おそらく、10週打ち切りシステムの要諦は、漫画家にある程度の自由度を与えることと、多くの漫画家にチャンスを与えることにあると思います。「ある程度好きに描いていいよ。全力でがんばってごらん。ダメならすぐに打ち切るけどね!」というシステムだと思うのです。冒険をしない作品を長く続けるか、ジャンプのように短い期間でたくさん冒険させるかの違いではないでしょうか。
こう書くと、あからさまに後者の方(10週打ち切りシステム)が良い気がしますが、しかし、最近のジャンプが結果を出せていないのも事実ですよね。「たくさん冒険させて全部失敗する」では話になりません。10週打ち切りシステムは長期的スパンでの物語が作りにくいけれど、読者層が高年齢化することにより高レベルなストーリーが求められているという、そのジレンマに問題があるのかもしれません。となれば、編集部としては、一話一話でのインパクトが大きく、それでいて長期的スパンでの物語も考えている、そんな新人を欲することになりますが、今はそういう新人がいないという、まあそういう話なのだと思います。
僕の結論としては、10週打ち切りシステムは功罪両面だけれど、実際に結果が出せていない以上、素晴らしい新人の登場にだけ期待するのではなく何か手を打った方が良いのでは、といったところでしょうか。まあ、そんなことは僕のような素人が言うまでもなく編集部も考えているだろうことで、10週打ち切りではなく、猶予期間を若干延長する方針をこの間まで取っていたのでしょうが、「HAND'S」で、その方針も終わっちゃったようだし、さて、次はどうするんでしょうね。
※1……クリエイターに近い編集者などの例外もあります。
※2……武井先生は過去にヒット作があるので可能性がゼロとはいえないけど。