【5/2】レビュー「魔法先生ネギま!」


 ええい、マガジンの赤松健は化け物か。萌えはどうでもいいが、とにかくアツイ燃え漫画です。

 女の子31人全員のキャラを立てるラブひな……だと思っていたら、良い意味で裏切られました。女の子31人ということで「そんな大人数覚えるのめんどくせーよ」と思ってしまうのですが全然そんなことはありません。答えは「一度に31人のキャラを立てない」ことにありました。この手法を確立した赤松先生はスゴイです。

 10歳の少年が女子中学生のクラス(31人)を受け持つという設定で、先生のネギは魔法使い。クラスの女の子たちは当初普通の女子中学生として描かれているので、ここで「普通の人たち」「魔法使い」という対立項が生まれているわけです。それで、最初の方はギャグっぽい感じで「普通の人たち」の中に、「本好きの女の子」がいたり、「忍者っ子」がいたり、ということが描写されます。「普通の人たち」の中から、「キャラが立った」という意味で「普通だけど特徴がある人たち」が生まれるわけです。でも、31人もいるんだから、そりゃ忍者っ子くらいいるよね、と僕たちは軽く流してしまいます。さて、スゴイのは次からです。

 この時点では「魔法使い(ネギ先生)」「キャラが立った人たち(本好き、忍者など)」「キャラが立ってない普通の人たち(モブ同然)」の3通りに分類されているわけですが、次の段階として「キャラが立った人たち」が、「ネギ先生が魔法使いであることに気付く」のです。つまり、「キャラが立った人たち」は「魔法使い」の世界に組み込まれていきます。「普通の女子中学生」が「キャラの立った女の子」になり、次に「魔法使いの仲間」へとステージを昇っていく構図なのです。基本的にこれを繰り返すことにより、女の子たちは何人かずつ個性を獲得していきます。

 そして、「魔法使いの仲間」へとステージアップすることにより、彼女たちは特殊能力が得られます。その特殊能力は彼女たちの個性を反映したものになります(本好きの子は「他人の心の内を絵日記として読む能力」)。つまり、彼女たちはキャラを深めた、その最終形として、キャラクター性を「能力」という形でまとめるのです。「能力」はそのキャラクターの象徴ですから、読者はその「能力」を見るだけで、彼女たちがどのような人間であるのか瞬時に思い出すことができます。

 また、その特殊能力を得るための条件は「ネギ先生とキスをすること」です。恋愛感情を高めてキスをする子もいれば、切羽詰って仕方なくキスする子もいますが、どちらにしろネギ先生とのキスが不快にならない程度に、ネギ先生とその女の子は仲を深めているのです。エロゲーでは、女の子との仲を深めたら、御褒美としてエッチシーンがあるわけですが、同様に、ネギまもネギ先生との友愛を深めた結果として、「能力」という形で結実するわけです。

 それぞれの女の子キャラクターが、主人公であるネギ先生との新密度を増してゆき、その過程で生じるエピソードを踏まえて、キャラクター性を結集させた「能力」という形で己のキャラをまとめる。それらの能力は後の話になってもバトル中に用いられますから、能力は反復して読者に提示されます。キャラ性の象徴たる能力が反復提示されるということは、各キャラクターが反復提示されるのと同じです。そのため、昔のエピソードのキャラであっても読者は忘れません。「31人もの女の子のキャラを立てる」という荒行に、これほど効率的かつ最適な手法はないでしょう。急がば回れなのです。1人ずつ確実に立てていくのです。この手法は実に見事でした。

 しかし、個人的には、ネギまの醍醐味はバトルです。ネギまのバトルは非常に正しい。主人公はあまり強くなくて敵や味方に超人が多いのですが、ネギ先生より圧倒的に強い相手には、クラス女子の中で最強のエヴァしか勝てません。最強の敵には最強の味方ユニットでしか勝てないのです。相手が2500の兵隊を繰り出してきたら、学園生徒を総動員して立ち向かいます。物量作戦には物量作戦でしか勝てないのです。非常に正しい。

 また、敵も味方も「戦わずに目的を達成する」ことを考え、直接戦闘は避けようとする傾向にあるため、「非戦闘的な能力」の重要性が大きくなっています。「戦闘力はゼロだけど相手の心を読める」ユニットや、「戦闘力はゼロだけど万能な情報収集能力」のユニットなどは、戦況を有利にするため、作戦立案のために重宝されます。ドンパチだけではなく、それ以外の箇所で、複合的に能力は使われていきます。ここらの感覚はハンターに近いかもしれません。

 あと、感じたのが、どうも赤松先生はゲーム大好きみたいで、ヘックス制シミュレーションゲームや、「Warcraft」などRTS(リアルタイムストラテジー)のようなニュアンスを出そうとしていることです。そして、それはどちらに関しても成功しており、特に「2500の敵兵vs学園総動員」などは、まさにRTSのそれです。ヒーローユニットの活躍で劣勢だった自軍が勢いを盛り返すなどのニュアンスが特に。こういうのにゲーマーは弱いんだよなー。学園総動員は帰属意識を刺激されるのも良いですね。「オレたちの~~高は最強だぜ!」みたいな感覚で、これまた胸が高鳴ります。


 ***

 最後に僕がうっかり泣きそうになったポイントを紹介。ネギ先生たち魔法使いが、敵の魔法使いに襲われた時、ただ一人逃れた「普通の女の子」が、目の前で起こった異常な光景(魔法による強襲)に怯えながらも、「どうすればいいか分からないけど、あの2人なら何とかしてくれるかも」と、クラスメートの忍者っ子と中国拳法っ子に連絡を取るところです。忍者っ子も中国拳法っ子も、それまで半ばギャグとして「忍者でーす」「中国拳法でーす」と描かれていたのに、ここに来て突然「訳の分からない凶悪な魔法使いに対抗できるかもしれない人間ユニット」に格上げされたのです。これには本当に胸が高鳴りました。ギャグキャラのハズなのに「彼女たちなら確かになんとかしてくれるかも!」と僕も思ってしまったからです。しかも、彼女たちは実際に強くて、忍者っ子なんて「山菜は16分身すれば16倍の速さで取れて便利でござるよ、ニンニン」とか昔ギャグで言ってたんですが、バトルになったら本当に16分身して圧倒的な力で敵をボッコボコにしますからね。

 そんな感じで、ネギまは「31人の女の子のキャラを立てる」という荒行をクリアーしたばかりか、ハイレベルなバトル描写にも耐えうる漫画なわけです。萌え漫画というよりは、これはむしろジュブナイル伝奇にカテゴライズすべきでしょう。男vs男で女の子は解説してるだけの話もあるし、これを萌え漫画と考えるのは少し疑問です。他の作品で言うなら、九龍妖魔学園紀が一番近いかと。ただ、戦闘中に特に理由もなく女の子のパンツが見える辺りが、萌え漫画なのかもしれません。20年くらい前の読者がネギまを読んだら、「なんで何もないところでパンツが見えるんだ?」「この漫画はキチガイか」と思うんじゃないかなー。


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