【10/8】レビュー「BLACK CAT #01」


http://www.tbs.co.jp/anime/blackcat/

 矢吹先生の敬虔な信者であるにも関わらず、うっかりリアルタイムで見忘れたウッカリさんな僕ですが、無事、アニメ第一話を入手しましたので気を取りなおしてレビューしたいと思います。

 まず、OP前。クリードさまとトレインの対決シーンから始まります。この時のクリードさまの上ずった声が非常に安っぽく、理想的な世界を作るため全人類と面接を行おうとした偉大なクリードさまの面影はありません。これはおそらく「神々しいクリードさまよりも、庶民派のクリードさまを」と、アニメスタッフが志したからでしょう。また、安っぽいのはクリードさまだけでなく、第一話全体を通して何もかもが安っぽいですが、これも同様に、崇高過ぎる黒猫を少しでも親しみやすいものにしようとするスタッフの気持ちの現れでしょう。聖書と小説「聖書」の関係のようなものです。アニメスタッフをここまで謙虚な気持ちにさせる矢吹先生は偉大です。

 マロさまの重力張手(グラビティ・ハリテ)が拝めるOPの後、暗殺に成功したトレインが屋根の上で佇む様子が描かれます。これが僕にはどうしてもサイボーグ009に見えてしまうのですが、もしかして、ビバップ、ハンターだけでなく石ノ森先生からもパクられていたのでしょうか。僕の思い過ごしであれば良いのですが……。

 場面は変わって、街で食事をするスヴェン。しかし、ここであろうことか、スヴェンは紳士を、「シンシ」と発音しています。ああ、なんということでしょう。「紳士の単数形はジェントルメン」を強調し、世間一般の語学上の誤謬を指摘した矢吹先生の崇高な精神がこんな形で失われてしまうとは。「紳士の単数形はジェントルマン」と思いこんでいた僕の盲を啓いてくれた矢吹先生の御心がアニメでは伝わりませんでした。やはり「紳士」はジェントルメンと発音しないと。ここはGONZOの研究不足だと思います。猛省して欲しいですね。

 次にスヴェンは知事に就任したギャング(=賞金首)を捕獲するため、知事就任パーティへと参加します。パーティの最中、物語には全く関係ないデフォルメキャラがスヴェンにワインを引っ掛けるなどして、物語の緊張感を巧く削いでくれます。もちろん、過度の緊張により視聴者の心臓に負担が掛からないようにとのバリアフリー設計によるものです。流石は元祖バリアフリー漫画と謳われた黒猫のアニメです。見事なバリアフリーで、全くドキドキしません

 それにしても、この知事になったギャングの度量の広さは素晴らしいの一言です。カネがなく、レストランでもツケでメシを食っていた流れ者の賞金稼ぎスヴェン。彼のようなものさえ自由にパーティへ参加させていたのです。市民ですらない全くの流浪民のパーティ参加を認めただけでなく、さらに知事は、一般参加者と同じトイレを利用していたのです。どこの馬の骨とも分からないものを参加させ、さらにどこの馬の骨とも分からないものの前で、排便というもっとも無防備な姿を晒す市長。無闇な猜疑心に駆られ周りの者を遠ざけるような器の小さなギャングではない、大物のギャングを描くことに成功しています。

 ところで、この時スヴェンは頭からかけられたワインを拭うため眼帯を外していたのですが、そのため、たまたま見かけた知事に対しヴィジョンアイが発動してしまいます。ヴィジョンアイにより、知事がトレインに狙われていることを知ったスヴェン。しかし、ヴィジョンアイの使用により体力がなくなったスヴェンは、トレインより先に知事を確保することができず、仕事に失敗してしまいます。
 つまり、「たまたまワインをひっかけられたから、たまたま眼帯を外して顔を洗っていたら、たまたま知事が通りかかって、たまたまヴィジョンアイが発動して、その結果体力がなくなって仕事に失敗した」わけです。この描写は、一見何の必然性もない、どうしょうもない展開のように思われますが、しかし、これは実は、スヴェンほどの一流の掃除屋であっても偶然が悪い方向に作用すれば任務に失敗してしまうという、運命の非情さを描いたエピソードなのです。厳しい現実から目を背けることなく、あえて直視する。アニメスタッフからはそのような志の高さを感じることができました。

 そして、トレインにより知事は射殺。スヴェンはトレインを追いかけ、「悪人とはいえ、なぜ知事を殺した!」と詰め寄ります。その直後、トレインとスヴェンを襲うブーメラン。市長の部下のギャングが、市長を殺したトレインを倒そうと後を追ってきたのでした。上役が殺され、その仇を命がけで追いかけるとは素晴らしい忠誠心です。部下からこれほど愛されているとは、やはりギャング市長は器の大きな男だったのでしょう。そんな部下の忠誠心に心を打たれたのか、トレインは部下を殺すことなく、身動きだけ封じて、その場を立ち去るのでした。

 なお、スヴェンもその場を立ち去った後、そこに若き日のクリードさまが現れ、その部下に止めを刺してしまいます。一見すると、せっかくトレインが助けたのに何て酷い行為だ、と思われるかもしれませんが、これはおそらく、「身動きの取れないまま放置するような、そんな死よりも恥ずべき屈辱を戦士に与えてはならない」というクリードさまの紳士哲学によるものでしょう。年若いとはいえ、この頃からクリードさまの紳士精神は芽生え始めていたようです。

 その場を立ち去るスヴェンは、止めを刺された部下の悲鳴を耳にします。しかし、その時のスヴェンはとてもお腹が減っていたので、「悲鳴をあげているのはオレの腹の方だぜ」と、部下のことなど気にもせずに立ち去ります。スヴェンは先ほどトレインに対し「悪人であっても命は大切」と説いていましたが、これは一体どういうことでしょうか。僕が考えるに、これはおそらく「腹が減っては戦はできぬ」という古来から伝わる諺の正当性を訴えるための描写と思われます。これが温故知新というものでしょうか。温故知新の精神は、矢吹先生の原作からも痛烈なまでに感じることができましたが、きっとアニメもその精神を受け継いでいるのでしょう。

 そして、ラスト。真夜中にも関わらず屋上で放歌高吟する着物の女性が現れます。言うまでもなくこの物語のキーパーソン、サヤです。しかし、着物を着た女が真夜中に屋根の上で歌う姿は、まったくの不審者です。それも真夜中の話ですから、場合によってはDJ河原なみの近所迷惑です。しかし、それも仕方ありませんね。おそらくサヤは自分の存在をトレインに気付かせるため、あえてこのような変質者的な目立つ振る舞いをしていたのですから。単に「偶然の邂逅によりトレインの運命が変わった」というのでは、物語に積極性がありません。そうではなく「サヤがわざわざ目立つように変質者のような行動をしてトレインの目を惹いた」ということにし、物語に積極性と必然性を与えているのです。実に高度な描写と言えるでしょう。第二話も楽しみですね。13話くらいで終わってくれると、負担が少なくて助かります。バリアフリーです。

矢吹先生は偉大です。
矢吹先生は偉大です。


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