以前、侍魂などテキストサイトが隆盛を極めた折、テキストサイト論とかいうのが流行ったことがありまして。論が広がっていって詳細は良く覚えてないんですけど、「文章が巧くないとダメだ」「文章がヘタでも伝える内容があればいい」とかなんとか、そんな話だった気がします。
で、この小説ですが、これはまさに後者で、文章はあんまり巧くないんですが(といっても僕よりは巧い)、これがなかなか面白い。「コメディ」「ラブコメ」「時代劇」「近未来物」の4つの短編が、それぞれに謎と不条理な展開を残しつつ成立しており、それが最後の5つめの短編で緩やかに繋がるという構成になっています。この構成自体は、例えば「絡新婦の理」のように、構成美だけで度肝を抜くようなものではありませんが、しかし、構図が見えやすいので、自分で前の短編に立ち返ったりしながら、ちょこちょこ繋がりを確かめつつ読むことができる長所はあります。
個人的に白眉は、4つめの「近未来物」。大阪が支配力を増し、西は岡山から東は愛知までを占領下に置いた状況で、大阪の圧政に苦しむ関東のゲリラ組織が府知事暗殺を企図する話なんですが、ここで描かれている大阪の姿がすごい。支配階級はお笑い芸人で、街中では誰もが意味の分からないギャグを突然叫びだし、周りの人間はたとえ面白くなくても爆笑しなければ公安に捕まり洗脳されるという世界。他にも、ゴミはそこらに投げ捨てる、橋の上では必ずナンパする、ナンパされた女は「金を持っているなら付いて行く」という姿勢を見せる、など、大阪の負の側面を酷いくらいにデフォルメしつつ描いています。地方の特徴をデフォルメする作家としては、他に清水義範がいますが、作品のニュアンスとしてはちょっと彼に似てるかも。清水義範よりさらに文章が軽いけど。
総じると、そんなに勢いはないけど、まあ軽いし、そこそこ楽しいよって感じでしょうか。