「血を吸う宇宙」は僕の大好きな映画です。先日、この映画の脚本を書いている高橋洋さんの初監督映画「ソドムの市」を見て大変面白かったので、久しぶりに「血を吸う宇宙」も見返してみたのですが、やはり大変面白かったです。
ですが、困ったことにこの作品の面白さを伝えられる自信がまるでありません。こんなに面白いのに、何が面白いのかさっぱり分からないんです。うーん、困った。これじゃあレビューが書けないぞ。
少なくとも、この作品の肝が破綻したストーリーにあることは間違いありません。物語は最低限の論理的整合性を残しつつ(必要最低限ではなく最低限)、次々とシーンが展開していきます。最初は子供の誘拐事件からスタートしたのに、トイレのない家、代議士のレイプ、MIBの介入、宇宙人と戦うインディアン、FBIの青春時代、歌謡ショー、カンフーアクションなどが繰り広げられ、さらに主人公の回想シーン中に妄想や夢オチ、他キャラクターの回想が交差するので、がんばって筋を追おうとしていても、さっぱり訳が分からなくなります。この映画は一つ一つのシーンを「最低限の論理的整合性」で繋げながら展開するんですが、一つ一つのシーンにそれぞれ見所があるため、そっちに気を取られて整合性の方がどうでもよくなってしまい、まるで筋が追えなくなるんです。
ですが、この訳の分からなさがゲラゲラ笑えるかというとそうでもなく、ストーリーの破綻は確かに肝ではあるものの、そこから笑いに直結するわけでもありません。冒頭では、「おっ、この映画はもしかして面白いんじゃないか」と思わせるので、そこからストーリーがグダグダと崩れていくところは確かに見所の一つで緊張感があるのだけど、その緊張感はあんまり長持ちしないんですね。冒頭以外は本当にグダグダと崩れ続けるだけなので。
で、グダグダと崩れ続けつつ、話の筋を追う気力すら失わせるこの映画が、一体何がこんなに心地よいのか、これがさっぱり分からないのです。ただ、(こんなことを書いても仕方ないと思うのだけど)それはおそらくこの映画の持つ雰囲気であり、役者の演技やリズム間、台詞、間の取り方、カメラワークなどにより、絶妙に醸し出された「何か」だと思います。いわば「空気」を操ることが上手いがゆえに、この無茶苦茶な話をニヤニヤしながら見ていられるのではないでしょうか。たとえば、主人公がオシッコを我慢して内股で歩くシーンとか、そのくだらなさにかなりニヤニヤできます。あの脱力した絵面などが、この作品の臭いを決めているのかな。
というわけで、この映画の面白さをまったく伝えることができないのですが、それでもオススメなので興味があったら見て下さい。ただ、「ソドムの市」と比較すると、「血を吸う宇宙」は圧倒的に人を選ぶ映画です。「ソドムの市」は全体の雰囲気が「優しく」「暖かい」映画なんですが、こちらは「冷たく」「突き放した」映画ですね。「ソドムの市」はなんだかんだで最後にはキッチリとカタルシスを与えてくれますが、こちらは最後までカタルシスなく訳の分からない地点に着地して、無情にもそのまま終わってしまいます。でもこのラストも僕は好きなんだ。
たぶん、今後もまだ何度か見るので、何が面白いのか判明したらまたレビュー書こうと思います。とりあえず今の時点では僕の手に余ってる。
追記)ちなみにこの映画は「発狂する唇」の続編なんですが、発狂~の方は別に見なくてもいいかなと思います。ていうか、むしろ見ないほうが楽しめると思う。