【1/17】レビュー「ショーン・オブ・ザ・デッド」

　ショーン～はタイトルからして、ロメロの「ドーン・オブ・ザ・デッド」のパロディ作品っぽいし、実際にゾンビ映画のパロディだと聞いてたので、そういう心つもりで見たのですが、良い意味で裏切られました。この作品は、単なるパロディ作品ではありません。パロディももちろんしっかりと描かれていますが、キャラの立て方やストーリー展開など大事なところはキッチリと映画しているのです。それも非常に高レベルです。

　ちょっとダメ人間だけど、でも根がいい人すぎる主人公のショーン、そして、誰の目から見ても明らかにダメ人間の居候エドの関係が絶妙です。顔立ちも振舞いも下品なエドは、見てる側からすれば「エドも早く見捨てればいいのに」と思わされるのだけど、いくら迷惑をかけられても決してエドを見捨てようとしないショーンを通じて、段々エドを好きになってしまうのが不思議。いらんことをして主人公達を危機に陥れるキャラは、ホラー映画には必ず一人いるものですが、「ショーン・オブ・ザ・デッド」はそんなキャラが好きになれちゃうんですね。

　ただ、それはこの映画に漂う緊張感のなさがなせる技かもしれません。ゾンビというのは基本的に１対１なら楽勝、５対１くらいでも何とか勝てる、しかし、圧倒的多勢に取り囲まれるとどうしょうもない、というものです。ショーンでは、いきなり主人公達が多数のゾンビに取り囲まれることはなく、最初は１体、２体を相手にする程度なのでへっちゃらです。ゾンビにビビりながらもレコードを投げつけて撃退しようとするなど、まるで緊張感がありません。では、多数のゾンビ相手ではどうかというと、ゾンビの間を掻い潜りBARへ逃げこむシーンでも、「ゾンビと同じようにフラフラ動けばバレないだろう」という理屈で、ゾンビのフリをして実際に切り抜けてしまいます。こんなことだから、物語中盤まではまるで緊迫感がなく、エドがいらんことをしても「危機に陥った」というよりは、「なんか面白い展開になりそうだ」としか感じないのです。

　また、ゾンビ映画に付き物のヒューマンドラマもちゃんと描かれてます。憎んでいる義理の父親、愛している母、昨日ふられたばかりの恋人など、ショーンはこの事件の最中にそれぞれの人間関係に立ち向かうのですが、基本的にショーンは根がいい人なので、いずれにせよ後味の悪い結果にはなりません。ちょっと泣けてくるシーンもあります。安っぽいヒューマンドラマといえばそうかもしれないけど、でも安くてもいいじゃない。ショーンはとにかくいい人だよ。

　そして、肝心のギャグですが、いろいろ面白いところはあったけど白眉はやはり「QUEENの曲に乗せながら若者４人が一人の老人（のゾンビ）を取り囲んでボコボコ殴る」シーンで決まり。ここの破壊力は凄まじくて、一緒に見てた４人全員で爆笑したほどです。こんな凄まじい映像、いまだかつて見たことありません。これを言語化しても何が面白いのかさっぱり伝えられないのが残念です。

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　というわけで、基本的にはパロディー映画なんですけど、よくあるパロディー映画とは違い、ストーリーもキャラ作りもしっかりしており、そんじゃそこらのゾンビ映画より遥かに面白いです。ゾンビ映画に新しいアイデアを持ち込んだ意欲作「アンデッド」よりも、個人的には高い点数を付けたいですね。また、自宅から近所の食料品店へ向かう冒頭シーンの長回しに顕著なのですが、映画としての作りも非常に巧いです。ここの長回しはとてもハイセンスなのですが、その後、街にゾンビが溢れ荒廃した状態で、同じ長回しをもう一度撮影し対比させる演出にはシビれました。この映画は、パロディ映画だなんて思わず見て欲しいですね。素直に良い映画です。