【1/14】レビュー「ソドムの市」


 先日、JJのおうちで行われた新年会「ホラー映画をたくさん見る会」ですが、No.5にレパートリーを尋ねたところ、あいつが意気揚々というのですよ。

「かがみさん! 今日はソドムの市を持ってきましたよ!!!!」

 おいおい、No.5もかわいいトコロがあるじゃねーか。まさか、いまさらパゾリーニを持ってきて得意ぶるなんてよォ~。ソドムの市はマルキド・サド著「ソドム120日」の映画化作品で、集められた美少年と美少女に権力者が延々と拷問したりうんこを食わせたりする内容な上に、監督(ホモ)が撮影後、美少年役の俳優の一人に(痴情のもつれから)殺害されたというスキャンダラスな作品です。まあNo.5もなんだかんだいって、まだ二十歳そこそこ。ソドムの市を持ってきて得意ぶりたい気持ちも分かります。ふふふ、かわいいやつめ。

 しかし、僕にハナで笑われていることを知ったNo.5が一言。

「かがみさん! いっときますけど、パゾリーニじゃないですよ!!!!」
「な、なんだって――!!!!」


 ***

 というわけで今日のレビューは高橋洋初監督作品「ソドムの市」です。タイトルこそソドムの市だけど、内容はパゾリーニともマルキド・サドともまるで関係なく、むしろ「座頭市」の関連です。これが非常に素晴らしかった!

 高橋洋監督は僕の大好きな映画 「血を吸う宇宙」の脚本家でもあるんですが、本作は血を吸う宇宙と同じくらい荒唐無稽ながらも、宇宙よりも笑いやすいポイントが多く、より面白みの分かりやすい映画になっていたと思います。「血を吸う宇宙」を洗練(?)させて、ゲロを抜いた感じでしょうか。

 ストーリーは、真面目に紹介するのもバカらしいんですが、子供の頃に缶けりと巴投げで友人とその母親を殺害した俎渡海市郎(そどみいちろう)が、成人して結婚式を挙げてる最中、実の妹の手により花嫁と列席者を毒殺され、そこへ300年前の呪いが降りかかり失明。座頭市のような居合い抜きの達人になり妹を斬り殺すも、妹を復活させるために棺桶を引きずりつつ、腹を空かせた人間を誘い蕎麦屋でカツ丼を食べ、お勘定代わりに居合で店員を斬り殺す展開がカツ丼なのにてんどんで行われ、そんな悪逆無道の数々で「ソドムの市」として世間に悪名を轟かせます。市は死刑執行間際にあったマッドサイエンティストを助け出し、その科学力を持って新幹線を置石で転覆させたり現金輸送車を強盗したりしていたら、昔殺した幼馴染の妹のテレーズが刑事になってやってきたけど、市の計画は最終段階を迎え、巨大なレプリカB29が東京の空を飛び、B29から垂れ流される呪文で街の人々は市に操られるも、最後はテレーズと、市が今まで殺した人たち、そして市の一派、さらには甦った妹までが刀を握って、いくら斬られても死なない大殺陣バトルロイヤルを繰り広げ、いきなり出てきた良く分からないオッサンの一言で収束します。何を言ってるかまったく分からないと思いますが、このままこういう内容です。

 で、この作品が面白かったことは間違いなく、全編ゲラゲラ笑いながら見ることができるんですが、しかし、何がどう面白かったのか説明するのが難しい。一つ一つのシーンを取り出すと、そのどれもが本当にくだらなく、例えばB29はものすごくチャチなミニチュアで思い切りピアノ線が見えますし、300年前のシーンには背景に配電盤が映ってます。ですが、そんなことは本当にどうでもいいのです。それだけの魅力が全体にあるのです。

 では、何がどうなって「そんなことはどうでもいい」のかと言えば、これが良く分からない。敵を追いかけるところでこける市とか、車に人物のカラーコピーを貼り付けてカースタントを表現する辺りとか、そういった光る小ネタもたくさんあるんですが、どうもそれだけではない気がします。逆に演出のチャチさが味になっているのかといえば、それもあるだろうけど、やっぱりそれだけではない気がします。うーん、分からん。

 単なる面白い一発ネタの集合体ってだけじゃないと思うんです。それだけじゃなくて、胸高まる何かがあるんです。JJやNo.5は「映画的展開の巧さ」みたいな言葉で評していたけど、これは僕には感覚的に分かり辛い。でも、言語化するとそういうことになるのかもしれない。

 ただ、僕にも胸を張って語れるこの作品の魅力が一つあって、それはダークヒーローたるソドムの市のキャラクターです。すごく凶悪で狂犬のような人のはずなんですけど、ソドム一派の仲間に対しては決して狂犬ではなく、むしろ(目が見えないから)道を間違えて連れ戻されるとか、「盲人だから世話がやける」という愛嬌があります。新幹線転覆に成功した時のソドム一派のハシャギようなども見てて微笑ましく、「ソドム一派になら入ってもいいかも」と思わせる魅力があるのです。こわいはずなのにかわいいんですよー。しかも頼れる!(気がする)

 そして、ラスト。「そんなに斬られてえか。斬られるといてえぞ」と、思い出したように座頭市のパロディを入れるも、それが全然効率的に活かされず(今まで鬼のように強かったのに急に弱くなる)、それどころか、全編かけて復活させようとしていた妹が良く分からない理由で復活して、復活したら何故か刀を持ってて、そしたらみんなも刀を持ってて大殺陣になる荒唐無稽だけど力強い終盤戦。生き返った妹がいきなり刀を持って、テレーズ(女刑事)と斬りあう意味不明さ、カッコよさは、視聴者に問答無用のカタルシスを放り投げて、そのままオチもつけずにそそくさと終了していきます。しかも、こんなことまでされてるのに、後味が全然悪くないんですよ。


 ***

 僕が素晴らしいと思った作品であることは間違いありません。同じく「血を吸う宇宙」も大好きだけど、宇宙は人を選ぶ作品だと思うので、「ソドムの市」の方が(たぶん)万人受けすると思います。ラストの着地の気持ちよさは「血を吸う宇宙」がわずかに勝ってる気がするけど、総合的に見たらソドムの市の方が上かもしれません。なんていうか、ソドムの市はすごく優しいんですよね。死霊のはらわた3のように、見てると暖かい気持ちになれるんです。疲れてる時とかに見ると癒されるよ。



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